まえ   つぎ    日記



2008年4月25日 箱根の豆桜




余花=若葉の中で咲き残っている老花のこと



アブラゼミの幼虫を集めて、

生命の来し方行く末について熱く語る老いた山蟹が、

ワシは千年も万年も生きるぞ!と嘯いている。


やがて亀になって万年のイノチを手に入れるわけよ。

健康に留意して長生きすれば、いつか亀になるんだぞ。

な、な、すごいだろ。ほぼ永遠のイノチだぞ!


そんな大法螺を吹きまくって夏兆しの向こうへゆらゆら歩き出す。

ひび割れたハサミを振り回しながら峠道を行くカニの甲羅に、

青々とした初夏の風が流れ落ちる。


若いセミたちは思う。

あのカニは亀になれるのかな~。

そんなのムリに決まってんじゃん。カニはカニさ。亀より遅いカニだもん。

千年も万年も生きてたら、ちょー後期高齢者になっちゃうしィ。


と、そのとき、

箱根山の真上に浮かんでいた花雲が言った。

いや、そうとも限らんぞ。

あの山蟹は只者ではない。もしかしたら不死亀になるかもしれん。

近頃は何が起きるかわからんでな。


馬酔木の白花が異議なしとばかりに、ふふっと無邪気に笑った。

おなじく満天星の白花が、くくくっと皮肉っぽく笑った。

満開のまめ桜の白小花は、清楚な沈黙を守っていた。


その頃、仙田喜三郎(83)という名の山蟹が、

箱根湯本の「蕎麦・暁庵」をめざして、猛スピードで走り下っていた。

仙田さん、あんたは箱根駅伝の復路か?




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