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梅雨前の台風に驚いて、あたふた飛び回っているのは、 タンポポの種子と、早熟なセミと、蚊の先遣隊。 セミと蚊は間近な死を背負って重く生真面目に飛んでいるが、 新たな生の着地点を探し求めているタンポポの種子は、 伊豆の清風にすべてを委ねて、のんびり遊覧飛行を楽しんでいる。
台風の余力を借りた若い夏風が、 1グラムにも満たない種子を天城の頂上めがけて吹き飛ばす。 すると、ひたすら軽いくせに誰よりも重い生命の可能性体は、 成層圏さえも軽々と突き抜けて、遙かその先の高みへ舞うように昇って行った。 白い月に向かって、白い種子が飛んでいく、とても蒸し暑い白っぽい午後。
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