まえ  つぎ 日記INDEX

11月26日


花盗人を捕まえろ!

被害者その1:おばさんのサツキ。

ウナギを食べに行った。
馴染みの店で定番の1000円ランチ。
「うな重特上」なんて、とんとお目にかかってない。
ひとつ置いたテーブルにおばさんグループ4人。
リーダー格の女性、異常に声がデカい。
店中に響き渡るような大声でしゃべりまくっている。

あのさ、盗まれたのよ。ウチの植木が。
知ってるでしょ。背は低いけど垣根代わりにしてた、サツキ。
もう、ごっぽり。そうね、2メートル分くらい、何もないのよ!

そりゃ、大事件だ。私は耳をそばだてる。
正確には耳をそばだてなくても丸聞こえ。
店に置いてあった「女性自身」を読んでる場合ではない。
小室哲哉の5億円挙式、大ひんしゅく!
そんな記事は、どうでもいい。泥棒の話を聞きたい。

ところがさ、近所の家にそっくりなサツキがあったのよ。
主人が用事でその家に行ったらね、植えてあったって。
そっくりだって。ちょうど2メートル分のサツキ。
植えたばかりだってのがわかるのよ。土が固まってなかった。

さすが、おばさん。早くも犯人を割り出したぞ。
植木窃盗罪で逮捕するばかりだ。どうなる、事件の結末は。

だからねー、ご近所さんでしょ。困るのよ。言えないのよ。
あそこ町内会長でしょ。なんでああいうことする?


言ってくれれば上げるのに。

ひと言さ、言ってくれれば…。


私は、おばさんの顔を見た。確認するようにしっかり見た。
言えない。あの人には、サツキくださいなんて言えない。
だって、だって、鬼瓦みたいな顔だもん。

花盗人。花を盗むのは罪じゃない。
とは言うが、2メートル分もの垣根用サツキは、まずい。
しかも物的証拠を自分の庭に平気で植える。わからん人だ。
バレバレじゃん、そこのご近所さん。

大切な花を盗まれたという話をよく聞く。
実は私もハーブ盗人である。
持ち主不明、草ぼうぼうの土地にハーブがあったので、
散歩帰りに10本くらい抜いて持ち帰った。

翌日そこを通ったら「ハーブを盗らないで」という看板があった。
ぎょ。持ち主がいたのか。抜いたのが、なぜわかった?
どこかで見てたのか。その場で文句言えなかったのか?
ごめん。いまさら返却できませんが謝ります。



被害者その2:アネモネ(球根)

10月29日の日記で書いたように、
花壇にアネモネをごっそりと植え込んだ。
来春には白い花が見られる。楽しみにしていた。

ところが!

花壇が何者かに荒らされた。数日前のことだ。
アネモネ、水仙、ラナンキュラスの球根を植えたあたりが、
手当たり次第にほじくり返され、ボコボコになっている。
この球根泥棒め! 怒ったぞ。カンカンだぞ。わなわな。

アネモネは深さ1cm程度の浅植え。掘り出しやすい。
調べてみたら深めに植えた水仙などは無事だった。
数は少ないが被害を免れたアネモネもある。
それにしても他人の庭に堂々と入り込み球根を盗んでいくとは!
いい根性しているじゃないか。逮捕したら島流しにしてくれる!

再度、アネモネを植えた、その夜のこと。
午後9時頃だった。タバコを吸いにテラスに出た。
何気なく庭を見た。灰色の小さな物体がもぞもぞ動いている。
花壇のあたりで、あやしく動いている。
貴様か、アネモネ泥棒は? 現行犯で逮捕する!

近寄ってみた。犯人は夜行性ハリネズミ。
小さな目が私を睨んだ。じい〜っと見た。
伊豆高原には、野生のハリネズミが数多く棲息している。
木の根や球根などの柔らかな植物はもちろん、
コオロギやミミズなどの虫を好んで食べるらしい。

暗いので姿がよくわからない。
とって返して懐中電灯でハリネズミを照らした。
するとハリネズミは、ぺこりとアタマを下げて言った。


お初にお目にかかります。
きちんとご挨拶に伺おうと思ってましたが、
色々と事情がございまして遅れました。申し訳ござんせん。
へい、確かにアネモネの球根を頂戴したのはアッシです。
ですが頂いた球根は貧しい仲間に分けてやってるんです。
この通り不況でしょ。アッシらハリネズミも苦しいんでさ。

私にも言い分はある。
だからって他人のものを盗んでいいのか、ええ?
法治国家だぞ。そんな道理が通るとおもうのか?

へい。確かに。わかっておりやす。
こちら様へは二度と現れません。
今回はお慈悲だと思って見逃してやっておくんなせー。
ごめんなすって。

ちょっと、待て、ハリネズミ!
私は残った球根を手探りで掘り出し、ヤツに渡してやった。
自分が食べるのではなく、貧しい仲間に分けてあげる。
そこが気に入った。お前は義賊だ。ハリネズミ小僧だ。

別れ際、私は言った。
他の家の球根ならいくら盗んでもいいぞ。
不景気なんかに負けるなよ。

ハリネズミは、頭にかぶっていた白手拭いを取って、
この恩は一生忘れません。お身体、ご自愛!
と叫んで闇の中に消えていった。

言ってくれれば上げるのに。ひと言さ、言ってくれれば…。


今朝のことだ。新聞を取りに玄関に出た。
と、そこに落ち葉にくるまれた囓りかけの球根。
ヘタな字でメモが添えてあった。ハリネズミからだった。

先日の御厚意に深く感謝申し上げます。
あれから仲間たちと相談いたしました。
やはり他人様の球根を盗むのはやめにします。
野生の動物らしく自立の精神を高く掲げ、
決して世間に恥じることのない、誇り高いハリネズミ道を歩もうと思います。

すでに仲間が食べてしまい、些少ではございますが、
頂戴した球根をお返し申し上げます。ご笑納くだされば幸いです。

ついでに。
アッシらハリネズミはモグラ科です。
従ってネズミ小僧ではなく、モグラ小僧とお呼びください。
ありがとうございました。
さようなら。


私は朝刊を脇に挟んだままメモを読み終えた。
小さな球根が5個、枯葉に包まれている。
律儀な義賊ハリネズミ、お前と友達になりたいぞ!

アネモネが2cmほど芽を出した。
初めて見る世間に、おっかなびっくり。
頭を低くして背中を丸めている。いかにも寒そうだ。
ハリネズミが見逃した第一次アネモネ。
お前は運のいい花だ。健やかに育て!

本格的な冬がすべての生き物にやってくる。

春は、ずっと、先だ。



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