まえ  つぎ 日記INDEX

9月08日


コスモスの花に眠る蟷螂。

先日、知人が栗を持ってきてくれた。大きな栗の木がある家。
今年はたくさん収穫できたらしい。栗は好きだ。早速、栗ごはんにして戴こう。
イガイガの栗も3つほど混じっている。
頂戴物の御礼としてビールかアイスクリームを用意してあるのに、
この日に限って何もない。すべて飲んで食べてしまった。

ええい、苦肉の策だ。

コスモス数十本の束と早咲きの秋バラを3本、どうぞ。
庭の隅に咲いたコスモス。なぜか今年は開花が遅かった。
知人はニッコリと笑って言った。最近、太ったからビールは飲まないし、
大好きなアイスクリームも食べないようにしている。
この花、水盤が入った小さな籐の籠に活けてみるわね。

ウチには、古びた大皿にイガ栗を3個、ころん。
横に添えた名もない野草と仲良くしている。

コスモス、こすもす、秋桜。気取りのない普段着の花。
昨夜の大雨でほとんどの枝が倒れてしまった。
終わりかけた花を整理することにした。

と、コスモスの根元に、そいつは、いた。カマキリ、かまきり、蟷螂。
でかいメスだ。目ん玉をギョロリと剥いて、私を見ている。
伊豆高原はすでに秋だ。夏のカマキリは照れくさそうな顔をしていた。

自慢の蟷螂の斧は、すでに錆びつき、振り上げる気力もないらしい。
カマキリは言う。死に時を逸したようです。惨めなものですね。

私は言い返す。ならば、いっそのこと冬越して生き続けたらどうか。

カマキリは言う。
今年は存分にオスを籠絡して数多くの子孫を残しました。
私の役目は充分に果たしたつもりです。たっぷり生きました。
後悔はありません。お願いです、ひと思いに踏んづけてください。

ふん、笑わすなよ。カマキリの自殺幇助かよ。
自分で自分を殺すなんて洒落たマネは百年早いぜ。
セミを見ろ。蝶を見ろ。トンボを見ろ。奴等を見習ったらどうだ。
みんな、生きて、生きて、生き抜いたではないか。
彼らはそれでもまだ生き足りなかったはずだ。

お前も、死ぬまで、生きろ。
生きるってことは、死ぬことなんだからな。

コスモスが横から口を出す。死にたいヤツは死なせてやれば。
自分はタネを大地にこぼしたら、パッと死にますよ。
桜みたいな散り際が好きなんでね。

私は、言う。
おい、コスモス。生意気なことを言うんじゃないよ。
死に際にきれいも汚いもないぜ。
ただ死んでいくだけだ。
散った花びらが雨に揺れて、地面に未練がましくへばりついている桜。
きたねーったら、ありゃしねーぞ。

かまきり! うだうだ言うな。
焦らなくても死はすぐ来る。それまで待て。心穏やかに待て。
大きな斧をひと振りしてから秋桜の下で眠れ。

あばよ、夏を生きた者よ。



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