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●恫喝する朝焼け 珍しく早朝に目が覚めた。 伊豆東海岸では、ものすごい朝焼けを見ることができる。 禍々しい色彩、血みどろの空、午前5時の不吉な兆候。 寝起きの悪い不機嫌な光り、怒気を含んだ雲。その迫力に気圧される自分がいる。 朝焼けは、見せかけの調和など木っ端微塵に打ち砕き、 凡庸な人々の凡庸な営みを軽蔑する。 ささやかな幸せと長寿だけを願う、凡庸な私をグッと睨みつけて、 願うだけなら誰でもできるさ、と悪意たっぷりの言葉を投げつける。 そして、こうも付け加える。 お前の心の火種は、ずいぶん小さくなったなー。 トンガッた炎はどこに消えた? 若い日々の面影なしか? そんなに、ま〜〜るくなって、楽しいのか。ええ、どうなんだ? ● 3時間後、いつもの朝食を食べる。 ローズヒップティ2杯、同じくローズヒップのジャムが塗られた食パン一枚、 各種フルーツ入り・カスピ海ヨーグルト、サラダ。 ビタミンCをはじめとする栄養素が細胞の隅々に浸透していく。 朝にふさわしいカロリーを吸収して、俄然、脳が活気づく。 と同時に、身体のどこかが点火する。ぼっ! 一瞬にして私は今日を生き抜く熱血漢に変身する。 たかが朝焼け如きに不意打ちを食らうような隙だらけの私ではない。 ● 午前9時。ふふふ。朝焼け野郎め。さっきまでの威勢はどうした? 世界の悪運をまとめて煮しめたような魔道色は、どこへ消えた? 見る者すべてが怖じ気づき震え上がる血染めの空。 あの不気味な色合いから一転、何だ、その軽薄な明るい色は? 季節はずれのスカイブルーか。9月だぜ。お前こそマヌケだ。この日和見野郎め。 少しは趣のある秋色の空になったらどうだ。 季節にふさわしい気温になったら、どうだ。 人間には年相応って言葉があるんだぜ。 ● 私の小さな火種は、いまでも格好の可燃物に巡り会えば、ただちに着火できる。 とびきりの高温で青い炎を吹き上げて見せよう。 朝焼け色に似た、煮え切らない燃焼温度の低い赤ではない。 青紫の「外炎」よりも、さらに熱い水色の「内炎」だ。 炎は内に行くほど熱い。おいらに触るとヤケドするぜ。摂氏1700℃。 あぢ、あぢ、あぢ〜〜〜〜! ● 朝焼けが消えても天気は崩れることなく、この日も快晴。 午後2時、33.6℃。あぢ、あぢ、あぢ〜〜〜〜!
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