●12月3日 ふたりの小学生
近所に小学生がふたりいる。どちらも家庭の事情で祖父母の家に住んでいる。
4年生のM君はバレエとピアノを習っており、離婚したママと祖母の3人暮らし。
剣道場に通う3年生のT君は、離婚した両親が東京にいるが祖父母と3人暮らし。
バレエ少年は、顔がかわいい。
少女のような声でしゃべる。合唱系ボーイ・ソプラノ♪
ママが英語教室を開いているせいか英語は得意だが、スポーツはからっきし。
少年剣士は、眉が太い男っぽい顔で、
声変わり前なのにガラガラ声だ。魅惑のハスキー・ヴォイス♪
こちらは勉強は嫌いだがスポーツは得意だ。
運動会で大活躍! 上級生とケンカしても負けない。
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ふたりとも私のことが大好きである。by 本人談
というのも近所には年寄りが多くて話がつまらない。
その点、私が次々と繰り出す話題は実に楽しい。
下校途中に会ったりすると、ふたりは走り寄ってきて、こう言う。
うーさん、また、おもしろい話をして!
そこで私は昨夜テレビで見た「ハプスブルグ家・栄光の歴史」について語り、
最新映画「Mr.インクレディブル」のあらましを身振り手振りのオーバーアクションで話す。
さらに「オレンジレンジ」や「椎名林檎」の歌詞がいかに素晴らしいかを説き、
男女関係の機微について考察し、恋愛の歓びと哀しみについて私見を述べる。
相手が小学生だからといってガキっくさい話はしない。
それでも彼らはおもしろがっている。ちゃーんと伝わっているのだ。
時間があるときは、映画まるごと一本分のストーリーを微に入り細にわたり語って聞かせる。
少年ふたりは、目をきらきらさせて聞いている。そして、必ず最後にこう言う。
うーさんの話って、おもしろいよなー!
あはは。そうかい。お客さん、喜んでいただけましたか。じゃ、チップ、くれよ。
極上のエンターテイメントを無料で鑑賞するなどもってほかである。
私はこういうマナーを小学生相手にみっちりと教え込んできた。
彼らも最初は驚いていたが納得したのか、
最近ではチップをケチるような野暮なまねはしない。
その日持っているものをチップとして私にくれる。
給食で残ったパンとか、アメとか、色紙の切れっぱしとか、なんとかカードとか、
小さくなった消しゴムとか、拾ったばかりのギンナンとか、ドングリとか、昆虫の死骸とか。
ただし、あまりウケなかった場合は、
以前にもらった「カード」や「色紙」を返却しなければならない。
そこには観客と芸人の厳しいルールが存在する。
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昨日、剣道少年がものしり博士の私にクイズを出しやがった。
1972年10月28日、中国から珍獣がやってきました。
ここで問題です。その珍獣とは何でしょう?
ヒント 1:ゴハンダ 2:ウドンダ 3:パンダ
ほげっ! やっぱ小学生だな、おまえら。
答え、4番・パスタダ! 5番・モチダ!
かーん、違います。そんなヒントないじゃん。
あ、そうか。じゃー、6番・トマトサラダ! 7番・千代田区カンダ
小学生ふたりは悲しそう。せっかくボケクイズを出したのに、うーさんは笑ってくれない。
そればかりか逆にボケ返してくるんだもんなー。ごめん、ごめん。
ま、いいさ。少しずつ修行していけばいいよ。そのうちコツがつかめるから。
初冬の夕陽が少年たちの頬を染めている。
M君のまつげが金色に光っている。T君の耳たぶが銀色に輝いている。
ふたりの影が長く長く明日に向かって伸びている。
別れ際に剣道少年が言った。
うーさんに年賀状を出すよ。いま、作ってるからさ。
来年の干支は、にしだよね。
や、酉(とり)だけど…。
★剣道少年に告ぐ。酉を西とボケる。うーさんは、こういうの好きです!
★少年MとTに告ぐ。チップはなるべく現金にしてください。