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9月10日リスザルの遠足


リスザルは大きな群れを作って生活する。

体は小さいが動きが敏捷。

枝先から枝先へとジャンプする姿はリスを思わせる。

主食は、果実、昆虫。ほかに鳥の卵なども食べる。

身長25〜35cm、尾長35〜40cm、 体重600〜900グラム。

これを、ふまえて。


9月10日午前9時12分、ぼうっと曇り空を眺めていた。スカッと晴れないイヤな天気だ。

初秋の太陽はきょうも顔を出さない。出るのは愚痴っぽいボヤキばかり。

こんな天気じゃ田んぼにも出られねー。←お前はクボタの稲刈り機RA50か?

こんな天気じゃ活躍の場がねーしヨウ。←お前は太陽光発電か? ソーラーハウスか?

こんな天気じゃ使ってもらえません。 ←お前はスプーン1杯で驚きの白さ・花王アタックか?

この間の台風でリンゴも落ちたしヨウ。←お前は津軽のニュートンか?

この間の台風で家ん中、水浸しじゃん。←お前は安芸の宮島か?

海が荒れて波が高すぎる。運行休止だ。←お前は気の弱い遊覧船か? 

海が荒れて波が高すぎる。波乗り中止。←お前は気の弱い宇佐美のサーファーか?(地元ネタ)

山が荒れて頂上に行けません。 ←お前は第二次アタック隊か? 

山が荒れて下山できませーん。←お前は伊豆小学校5年2組のみなさんか? 


実に、どうも、しょーもないボヤキを連発だ。と、そこに驚くべき光景が出現した! 

空中を何かが走っている! 

あれは、なんだ? 空飛ぶ動物?

お前はスパイダーマンか? 

またはスパイダーマン2か?

私は目を疑った。眼底検査に行こうと思った。

新しい目薬を買うべきだと思った。

目を凝らしてよーく見ると、それはリスザルだった。電線を伝って移動中だ。

それも一匹や二匹ではない。次から次へとやってくる。

長蛇の列、数珠つなぎ、押すな押すな。150匹は優に超える大軍団である。

素早い身のこなし、軽やかな2手2脚4つんばい歩行、しなやかな尾。

愛嬌と辛辣の象徴である黒毛が口吻を彩る。友好的な耳、反抗的な目、抜け目のない仕草の数々。

一度にこんなに多くのリスザルを見たのは初めてだ。

大人がいる、少年少女がいる、子供がいる、赤ちゃんを背負った母親がいる。

敵を警戒する見張りがいる、群れを率いるボスがいる、真ん中あたりに中ボスがいる、その子分がいる。

近くの枝に飛び移ってポーズを決める体操猿がいる。いまもって金メダルを返さないアヌシュ猿もいる。

かまえたデジカメに向かってVサインをするひょうきん者がいる。

朝からイッパイ引っかけたのか千鳥足ふらふらの酔っぱらい猿もいる。

カレはほんとうに電線から落ちそうになった。そのあわてぶりがおかしくて、げらげら笑った。

時間にして20分くらいか、ひっきりなしにリスザルの群れは移動をつづけていた。

彼らはどこから来たのか。どこへ行くのか。冬に備えて実り豊かな新しい森をめざすのか。

正解を申し上げます。伊豆シャボテン公園から来ました。by リスザル代表

公園で放し飼いにされている彼らは、ときどき集団ピクニックを楽しんでいるらしい。by 地元の事情通

なんだ、そうか。秋の遠足か。いままで見なかったのが不思議なくらいだ。


リスザルは猿のなかでも飼いやすいペットとして人気がある。小型で見た目も可愛いからね。

しかし、目の前を通り過ぎたリスザルたちは、どれもこれも卑屈な目をしていた。

人間に飼い慣らされ、餌をもらい、懐柔され、観光客に媚びへつらう、自由を放棄した動物の目だ。

野生の矜持など微塵も持ち合わせていない腑抜けの猿。束縛されたがる者たち。

集団脱走しても自由のない公園に自発的に帰っていくリスザル。公園という名の檻が好きなのか。

お前たちは、甘えることだけが得意な愛玩動物に成りはてた。哀しくないのか。

不本意な人生に愛想が尽きて、普通なら切腹するところだぞ、リスザル侍!


伊豆のリスザルよ、よく聞け! 

中途半端な温暖地・伊豆シャボテン公園なんぞで、のうのうと暮らしているお前たちは、恥を知るがいい。

高湿な熱帯雨森で、自由に、快活に、日々を生きている仲間を見たことがあるか。

世界には、素晴らしいリスザルがいる。知らずば教えよう。

そのほとんどは中米もしくは南米に棲息している。


中米コスタリカの密林を縦横無尽に跋扈して自由を謳歌する、ホームレスなリスザル。

中米ホンジュラスの美しい海岸でイグアナと恋に落ちた、プレイボーイなリスザル。

中米エルサルバドルで毎日パパイアを食べてサンバを踊る、陽気なラテン気質のリスザル。

中米パナマで運河開通に一生を捧げた名も無きリスザル技術者。彼らは荒川放水路の建設工事にも携わった。

広大なアマゾンで焼き畑農法を教えたが逆に環境破壊だと怒られた、名も無きリスザル農業指導員たち。

広大なアマゾンでこんどは環境にやさしい家庭菜園をはじめた、リスザル一坪農家の人々。

広大な満州を舞台に建国と滅亡の歴史を見つめた、ラスト・リスザル・エンペラー。

南米コロンビアの深奥で麻薬王と闘っている、リスザル捜査官ジャック・バウワー。

南米ウルグアイの正式名称は「ウルグアイ東方共和国」である。東方って、何よ?

南米パラグアイの産業は、マリファナの栽培と輸出である。多国籍マフィアが集まる南米の魔窟。

さて、中南米ガイドは、このくらいにして。

いつか伊豆山中で見かけたニホンザルの獰猛な面構えが忘れられない。

群れを追われたのか、群れを拒否したのか、一匹だけで行動していた。離れ猿だろうか。

林道の真ん中にでんと座りこみ、遠くの山並みを見つめていた。

クラクションを鳴らしても動じない。仕方ないので小石を投げつけた。

するとヤツはゆっくりと振り向き、威嚇するように牙を剥いて、こう言った。

ここを通るならオレを轢き殺して行け!


その迫力にたじたじとなった私はヤツが消えるまで、いっしょに肩を並べて伊豆の山々を眺めた。

群れに同化できない孤猿、艶のない毛並み、黄色い歯、汚れた赤顔、老いた背中、ねじ曲がった左足。

野生の動物は傷つき弱っていても、どこか美しいところがあるものだが、その猿は薄汚れていた。

しかし、ヤツの目は凄かった。澄み切った強い目をしていた。

死や孤独をまったく恐れない野生の目だった。

集団に属さず、単独で生きることを選んだ猿。

無限の自由を手に入れた者だけが持つ、あの眼光、あの双眸。

私は猿に向かって思わず「師匠!」と叫び、毛づくろいをしてあげた。

猿は伊豆の山々を眺め、静かに森のなかへ消えた。いい猿に出会ったと思った。

大いなる自由に祝福された森へ、あらゆる危険が潜む凶悪な森へ、ヤツの森へ帰っていった。

去り際に、こう言った。 I am 一匹狼!


……って、猿じゃん。


★追記

リスザルの遠足を目撃した夜、映画「スペース・カウボーイ」を観た。

アメリカの宇宙開発初期、宇宙に行けなかった飛行士がいた。

40年前に断ち切られた宇宙への夢を、再び実現させる4人の老いた男の物語。

冒頭で、こんなシーンがある。

1958年、アメリカは宇宙飛行士の代わりに人工衛星にサルを乗せた。

これまでの厳しい訓練は何だったのか。がっかりする飛行士たち。

初めて人工衛星に乗ったサル。彼らの代わりに宇宙へ行ったのが、リスザルである。

そんなこんなで、私は、リスザルが嫌い。



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