まえ  つぎ  日記INDEX
●1月11日 人間味


地元の漁師・岩尾クンに聞いた話。

「シイラ」という魚は、とにかく成長が早い。

秋に3〜4cmだった子供シイラが、翌春には80cmの大人シイラになり、

なんと1-2年で軽く2m超の巨人シイラに成長するという。

刺身・塩焼き・てんぷら。日本ではどんな料理にも使える魚として重宝されている。

ところが、南にある島国では、シイラは死人の味がするから絶対に食べないという。

たく、ひでぇこと言うよなー!と岩尾クンはひとしきり憤慨してから、こう言った。

でもさ、考えてみたら、

ニモみたいに人間味のある魚ならいいけど、

人間味のする魚って、どうよ。腐りかけた人間味…。

そのへん、どうなのかと。

どうなのかと…。

どうなのかと…。


インド洋大津波で溺死した人間を、魚たちが食い散らかしている。

腐乱死体に食らいつく魚。その魚を釣り上げる漁師。気味が悪いので誰も魚を食べない。

漁師は、仕事を失い、家族を失い、財産を失い、明日を失った。

絶望したシワだらけの笑顔が哀れだ。

島に降り注ぐ真昼の光りは重く沈殿し、破壊された家屋すべてに悪夢をばらまいている。

抜け殻になった島に吹きつける冷笑的な強風が、砕け散った心を丹念にすり潰している。

途方に暮れる人々の痛哭と祈りだけが波間に漂っている。

すすり泣きが聞こえる荒れ果てた海岸。東洋人と白人の無数の残骸。

救助隊がつけるマスクを射抜く死臭のつぶて。

むごたらしい災禍の悲劇があたり一面にへばりついている南の島々。おーる・なっしんぐ!

これでもかと死者を鞭打つスコールはさらに激しく、

暗く沈んでいく夕陽が子供たちの涙を血色に染めている。

すべてが無惨なり。神も、仏も、あるもんか!

ナンにもないもん。すっからかん。あるのは伝染病と死体だけ。

ここで愚痴こぼしたって死んだ者は生き返らねぇしよー。ま、いいや。

とりあえず金だ。マネー!マネー! けちけちしないでドンと送れよ。頼むぜ。

by アジアの被災者一同


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