まえ  つぎ  日記INDEX
●1月30日 柔らかな手


真冬の洗車はつらい。冷たい水が手を切り裂く。指先の感覚がなくなる。

そこで考えた。

ふたつのバケツに熱湯を満杯にして、

あぢぢぢ、あちあち、あぢぢぢ! ひえー、あぢぢぢ!

とか騒ぎながら、ぎゅっと絞ったセーム皮でクルマを拭いていく。

もうもうと立ち上る湯気が消えて、熱かったお湯が冷める頃、

新聞に夢中で左手に持ったお茶が冷める頃、人の噂も45日、ほとぼりが冷める頃、

愛車MINI COOPERは、ぴっかぴかん♪

洗車が終わったら、すかさず両手にアトリックス。ハンドクリームの定番。

つらい冬の洗車作業をねぎらうように、ていねいに擦りこむ。もみ手、もみ手。

ふと、思う。

ハンドクリームは、フェイスクリームよりも、地位が低いのだろうか。

だって美肌美白美顔クリームは、容器もすごく小さいし、ちびっとしか使わない。

ハンドクリームは、がんがん使う。これでもかと塗りたくる。べったべた。

まあ、安いからと言ってしまえばそれまでだが。

洗車して荒れた手に、アトリックスを大盛り。

塗り切れないので余りを、顔や、首や、腕や、肘などに、塗りたくる。

ハンドクリームは、出し過ぎても戻せない。

ハンドクリームは、古そうなやつでも平気で使う。

ハンドクリームは、手荒れに悩む係長Aさんが昼休みに使っている。

ハンドクリームは、その係長の愛人A子さんが給湯室で使っている。

ハンドクリームは、中学生が使う桃色リップクリームにも負けそう。

ハンドクリームは、2ヶ月つきあって別れた彼女のカカトの匂いがする。

それにしても、私の手は柔らかい。ふわふわ、ほにょほにょ。

石炭ひとつ、トンネル一本、掘ったことのないヤワな手だ。

男の顔は人生の履歴書というが、

男の手は、バイト先に提出する書きかけの履歴書だ。

いま、どんな生活をしているか。手は意外にも雄弁である。

でかくて、ごつくて、大きな手に憧れる。

漁師・イワオ君の手。

指も、掌も、甲も、手首も、男らしい頑丈な筋肉で組成されている。

そんな強くて大きな手を持った男が、誰にも頼らず、独りで生きている。

徒手空拳。

多くのものを握り込んで放そうとしない、欲ぼけの醜い手が多いなかで、

ナニも持たない素手の美しさは、どうだ。

やがて、その手は、いっぱいの幸福を握りしめることになる。

そうなれば、いいね。

きっと、そうなるさ。



まえ  つぎ  日記INDEX


inserted by FC2 system