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2005年12月04日:青森の塩辛


親展:佐藤ヒルズ様

昨日、発送してくれたはずの塩辛、まだ届かないんですが。午前10時19分。

青森 → 伊豆高原、翌日到着の予定だよね。

午前中。待っても待っても、あなたは来ない。待ちくたびれて午前11時42分。

午後から用事があって熱海へ出かけてしまったので、

不在のメモでも入ってるかと郵便受けを見たが何もない午後4時26分。


午後5時・来ない。午後6時・来ない。午後7時・来ない。午後8時・来ない。

いつもの質素な夕飯を食べ終え、杉山のぐり茶を飲み、

手が届きにくい背中の真ん中へんを掻こうとして、肩の筋肉がツリそうになったり、

照明カバーの隙間に入り込んだ虫をニラみつけたり、

浜ちゃんの「じゃんスポ」を見ながらウトウトしていた午後8時45分。

ピンポーン!

来た! 来た! 来た! 塩辛が来た!

インターフォンで来訪者の顔すら確認しないまま玄関に飛び出した。

シャチハタを握りしめ、裸足で、お化粧も直さないで、寝間着のまま。

ところが門扉の向こうに立っていたのは、仙田さん。

うーさん、夜分に悪いけんどよー。ハンコくれない?

なんだ仙田さんか。クロネコかと思ったよ。

クロネコぉ? こう見えても「イヌ年」だよ、オレは。

そうですか。

そうともさ。サルとは犬猿の仲だぜ。だからって、タバコ嫌いの仲じゃねーよ。

そりゃ、嫌煙の仲! 

おお、いつもながら素早いツッこみ、ありがとう。

何ですか、ハンコって?

あ、そうそう。今年も「伊豆高原いきいきヤング老人クラブ」の忘年会をやるんだよ。

はい。

そんでさ、今年は参加希望者から確約を取りたいわけよ。確かな証拠。

はい。

去年は参加するとか言いながら出てこなかったり、急死する人が大勢いてさ。

はい。

会場の旅館にも迷惑かけたし、幹事もいろいろ予算的に大変だったわけよ。

でしょうね。

だから今年はハンコ押した人は、参加できなくても会費は徴収すると。そんな主旨。

りょーかい。

うーさん、青年部の代表として参加するだろ?

ええ、まあ…。

あれま! ナニ、その消極的な態度は。覇気がないなー。若いのにイカンよ。

すんません。

オレはさ、うーさん。零下30℃のシベリアに行って、

絶滅危惧種の「アムールヒョウ」を捕まえて来いとか言ってんじゃないよ。

はい。

目で讃岐うどんを噛んでみろとか言ってんじゃないよ。

はい。

姉歯ヅラをかぶって小倉智明とヅラ対決しろとか言ってんじゃないよ。

はい。

期末テストでクラス10番以内に入れとか、進研ゼミみたいなこと言ってんじゃないよ。

はい。

参加するんだろ? な、な、な?

します!

まあ平均年齢76歳の老人クラブだから、うーさんは若すぎるけどな。

でしょ? ちょー下っ端だもん。永遠のパシリ少年。お酌の専門業者。ゲロ掃除のスペシャりスト。

そこを堪えてさ、まもなく死に絶えてゆく老人のために一肌脱いでよ。

脱ぎます。

じゃ、ハンコ押して。ここ。

そんなこんなでハンコを押した。今年も参加します。しぶしぶ。

昨年の忘年会の様子はここでお読みください。

予想外の訪問、ムダな立ち話。身体が冷えた。午後9時12分。

仙田さんが立ち去った道の向こうに、ヘッドライトの長い光りが。もしや!

くろねこトラックのもったりしたエンジン音が近づいてくる。間違いない。

待ち望んだ塩辛が気温4℃の伊豆高原にやって来た。

知人であるイナセなニイちゃんが、小荷物を持って降りて来た。

うーさん、参ったよ。番地が書いてねーじゃん、これ。

はあ?

午後にさ、違うヤツが届けに出たわけさ。そいつは新人でさ。

うん。

このへんウロウロしたけど、番地が書いてないから困ったわけさ。

だよな。

伊豆高原は広いじゃん。東京ドーム、何杯分もあるしさ。

容積かい!

結局は住所不明ってことにして持ち帰ったわけさ。

だったら電話して来いよ。聞けばいいだろ?

ヤツのケータイ、電池切れ。なんともマが悪いつーかさ。

なんつーの、よく言うじゃん。墓にフトンは着せられずだっけ? 

蒲団と蒲田、似てるけど違うよね。

違う。「墓にフトン」の例えも共通項がありそうだけど、違うと思われ。

で、オレが仕事を上がろうと思って、配達未完の棚をナニゲに見たわけさ。

うん。

そしたら、うーさん宛の荷物があるじゃん。伊豆高原・うー様。

ふむふむ。

こりゃイカンと思ってさ。うーさんは短気じゃん。待てないタイプじゃん。

まあな。

若いヤツに言ってやりましたよ。

伊豆高原でうーさんを知らないなんて、

クリープを入れないコーヒーと同じだって。

その例えも、いかがなものかと。

若いモンにここの住所を教えて、すぐ配達して来いって命じたわけさ。

うん、いいね! 仕事ができる上司って感じィ。

そしたら若いモンがさ、あ、斉藤つーんだけどね、そいつ。

はい、斉藤くんね。

その斉藤が「妻が排卵期なんで急いで帰宅します!」って帰っちゃったわけさ。

あは。

うーさん、オレ、よくわかんねーけんど排卵期って、ナニよ?

排卵期に避妊しないで性行為を行なうと妊娠する可能性があります。

ふーん。オレって独身でしょ。そのへんのこと無知でさ。詳しく教えてくんない?

あのさ、ここで妊娠の基礎を男ふたりで話し合っても虚しいだろ。その荷物、くんない。

じゃ、ハンコ。

ぽん!

仙田さんにつづいてクロネコのニイちゃんとも話し込んでしまった。

身体が冷えて冷えて、指先は凍傷一部上場、足先はしもやけ初期。

寒いのなんの震えが止まらない。どうにも止まらない。

自分の担当でもない荷物をわざわざ配達してくれたニイちゃんに言った。

仕事は終わりだろ? お茶でも飲んでけば。

するとイナセな青年は言う。

いや、いいっス。夜にお茶飲むと眠れなくなるわけさ。敏感肌だから。

肌かよ!

クロネコ青年は「仙田くん」と言います。あの人の息子さんです。

親子が入れ違いにやって来た12月4日の夜。

見上げると全天に冬の星座が煌めき、

シリウスの蒼く強い光りが、仙田くんの銀色のトラックに反射していた。

寒冷前線が押し寄せてきた晴夜、仙田親子が押し寄せてきた星夜。

寒い寒い伊豆高原で温かなエンジン音を聞いたのは私だけ。

ありがとう、仙田クロネコ青年。

ありがとう、後輩・青佐藤くん。

塩辛は明日いただきます。あっつあつの御飯に乗せて。

感想はまた明日の日記で。


★追記:酒屋イージマ、ちゃんと番地まで教えるように。



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