今年はじめて外の水道が凍った。
霜柱をざくざく踏んづけて新聞を取りに行く。ない…。
このへんは配達されるのが遅い。7時50分頃だ。
暴風雨や雪の日などは9時過ぎになることがある。
左手にパンを持ち、右手で新聞をめくる。
これが朝食時のスタイル。約束事。キマリ。生活習慣病。
遅配の朝は、どうすればいいんだ?
空いた右手は、目的を失い、虚しく宙をさまようばかり。
手持ち無沙汰。
40数年、これといった落ち度もなく、マジメに勤め上げた会社を、
大きな花束と小さな退職金をもらって定年退職したお父さん。
新聞が来ない朝の右手は、お父さんに似ている。
●
お父さんは、定年後、温暖な伊豆で暮らそうと決意した。
近所づきあいが煩わしいから、
過疎の別荘地で野鳥やリスを相手にのんびりしよう。
ところが!
お父さんは冬の伊豆高原を知らない。さあ、大変だ。
市街地とは5度以上の気温差があるし、
しんしんと雪が降り、びしびしと氷が張り、
びゅーびゅー冷たい西風が吹きまくる、きんきんに冷えた夜、
80年に一度、ダイアモンドダストが見られる。
お父さんは、伊豆のなかでもトビキリの寒冷地に越したことを後悔する。
●
9時になっても新聞が来ない今朝。
そんなお父さんがお菓子を持って、引っ越しの挨拶に来てくれた。
ィ横浜から越してきたそうだ。永住するとのこと。
ここは寒いですね。いや、参りましたよ。
でしょ。
暖房はエアコンだけなんで、寒くて、寒くて。
そうですか?
夏は気持ちいいかと思って、大きな吹き抜けの家にしたんです。
なるほど。
やはり石油ストーブが必要ですね。
はい。
お宅の暖房は石油ストーブですか?
カイロ。
エジプト方面?
まあ。
それじゃ、失礼します。
ども。
いつになく口数の少ない私である。
だって、すごく寒いし、まだ新聞が来ないんだもん!
午前9時36分。気温4℃。強風。
体感温度マイナス32℃、バナナで釘を打った。
朝寝坊のY新聞め。来月からA新聞+伊豆新聞にする。決めた。
洗剤なんかで絶対にごまかされないからな。
●
待っても、待っても、バイクは来ない。新聞は来ない。
一日のはじまりを告げる、希望の排気音は聞こえない。
冬のバイクは、遅い。遅すぎる。