まえ  つぎ 日記INDEX

●3月9日 丸山健二・荒野の庭


人は花に咲けと言う。

花も人に咲けと言う。


丸山健二の新しい写真集「荒野の庭」が発売された。

雑誌「オブラ」に連載された「安曇野発 ホワイトガーデン 荒野の庭」をまとめたものだ。

彼が生涯の趣味であると決めた「すごい庭造り」の精華を写し取った、

「夕庭」「ひもとく花」につづく3冊目の写真集である。


たった一人で庭を作り、花と向き合う小説家、丸山健二。

この世こそが地獄であっても、花は咲き誇り、潔く散る。

世界が不毛の荒野であっても、丸山は庭を作り、小説を書く。

花と小説家が作り出す、陶酔と真の解放の書。


と、相も変わらず大仰なコピーがついた帯。ぞくぞくするぜ。

残念なのは写真の発色が悪いこと。色校正が入念に行われなかったのか。

あるいはレンズの性能か。しかも写真集というにはあまりに小振りなサイズ。

雑誌「オブラ」で見たときは、きれいだったのになぁーー。

以下、写真に載せられた言葉をいくつか紹介します。


悪が正されなくても、善の気配すらなくても、

白の中の白さえあれば、

きょうを生きられて、あしたも生きられる。


身も心もずたずたになりながらも、

夢の入り口にさえ達していなくても、今を生きている自分を褒め讃えよ。

なぜとならば、

きょうまで生きてきたこと自体が、実に大したことなのだから。

それだけでも幸運な人間であったと

胸を張って言えることなのだから。


白い花を演じられるのは、白い花だけ。

赤い花を演じられるのは、赤い花だけ。

私を演じられる者は私だけ。当然至極の事実が胸を撃つ。


美しく生き、幸福に死ぬ。

花でさえその夢はついえる。


独りに気づいた瞬間から、

夢の蕾がほころんでいく。


孤独な思索をやめよ。取り越し苦労をやめよ。

哀しみの所在を確かめることもやめよ。

一個の独立した人間として応分の務めを果たしたのか。そんな自問もやめよ。

人生の総決算の有無。それも考えてはならない。

心の投影を悉く軽んじよ。

そうすれば内なる光りが増し、この世の闇が薄まってくる。


白バラの「ジャクリーヌ・デュ・プレ」、「マーガレット・メリル」が、

同じく「グラミス・キャッスル」が、「フラウ・カール・ドルシュキ」が、

表紙の写真になっている頂点を極めた珠玉の赤いバラ「ブラック・バカラ」が、

シャクヤク「ラ・テンドルフ」が、白花の王様ボタンが、オオヤマレンゲが、

その他無数の花々が、作庭師・丸山健二に陶酔と興奮を日々もたらしている。

安曇野の奥の奥で、小説家・丸山健二は、花とともに、この庭とともに在る。

言葉・写真・作庭  by 丸山健二「荒野の庭」。よろしければお買い上げ願います。



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