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●2006年2月21日:トリノ五輪わかさぎフィッシング!


いきなりですが、

下の写真はトリノから送られてきた最新映像です。

じっくり見てください。

トリノ冬季五輪公式種目「わかさぎフィッシング・成人男子」予選6組

高橋選手(JAPAN)と国際審判員の斉藤さん(Hokkaidoー阿寒湖)


これをふまえて…。


2月22日21時30分現在、日本はメダル獲得数ゼロ。ほぼ全滅。

なんてこったい! がっでむ! さなばびっ…! まざふぁっ…!

それにつけても冬季五輪は低調だ。どの国も視聴率はボロボロ。

地元イタリアでさえ、ろくろく観戦しないオリンピックなんて、

クリープを入れないネスカフェよりタチが悪い。(by 仙田老人)


いま、イタリアは冬季五輪どころではない。

トッティ骨折! イタリアが大ピンチ!

セリエA・ASローマの同国代表FWフランチェスコ・トッティ(29)が、

19日のエンポリ戦(ホーム)で左足首を骨折、全治3カ月の重傷を負った。

6月開幕のドイツW杯に出場できても“ぶっつけ本番”になる可能性が大。

W杯で『死のE組』に入ったアズーリ(空色=イタリア代表の愛称)にとって、

不動の指令塔の離脱はあまりにも痛い。すごく痛い。ほんとに痛い。激痛!

トッティを襲った突然のアクシデントに、陽気なイタリアーノもがっくし!


トッティが骨折するわ、日本選手はメダルが取れないわ、

おもしろくも何ともない冬季オリンピックであるが、

ところが、どっこい!

ごく一部のファンに愛され注目されている競技があるんです。

そうです。「わかさぎフィッシング」。冬を代表する伝統のスポーツ。

静かなることいかにも東洋的、そこはかとなく感動的で、

やけに哲学的で、高尚で、瞑想的で、ちょっぴりセクシーで、

情熱的で、躍動的で、とても閉鎖的な競技、わかさぎ釣り。


トリノ五輪から新しく採用された新種目です。ご存知でしたか?

競技人口は3600万人を突破しており、各国ともプロ選手の育成に力を入れている。

地味なスポーツだと言ってしまえば、確かにあまりにも地味であるが、

私はここでアピールしたい。声を大にして言いたい。

わかさぎ釣りをバカにする者は不幸になる。

写真↑・伊豆高原在住の高橋孝介さん(67歳)です。

たかはし・こうすけ ではない。タカハシ・タカスケさん。

みんな彼のことを「たかたかチャン」と呼んでいる。

伊豆以外の皆さんはご存知ないかもしれませんが、

高橋さんは伊豆半島ではちょっとした有名人です。

伊豆の瞳・一碧湖のボート小屋に勤務すること50年。

雨の日も風の日もボート管理ひとすじ50年。

真冬、湖が結氷すると「わかさぎ釣り」をして家計を助けます。

早い話が「わかさぎ漁師」ですね。プロってことですね。


3ヶ月前のこと。

そんな彼が全国予選を勝ち抜いてトリノ五輪わかさぎ釣り代表選手に内定した。

伊豆高原はもとより伊豆半島全体がお祭り騒ぎでした。

伊東市長、村長、町内会長、婦人会、PTAなど、

伊豆半島すべての市民村民が高橋選手の五輪出場を祝ったのです。


がんばれ、がんばれ、ニッポン! 

がんばれ、がんばれ、タカハシ! 

釣れ、釣れ、ワッカサギ! 

釣れ、釣れ、ワッカサギ!


おっと、トリノと中継がつながったようです。

それでは会場の三宅さん、お願いします。


日本のみなさん、こんばんは。実況の三宅です。

さあ、待ちに待った競技が始まりました。

わかさぎフィッシング「一本釣り部門」成人男子予選・第6組。

日本期待の高橋選手(67)が登場いたしました。

伊豆半島は一碧湖伝説の釣り師、恐怖のわかさぎハンター、

釣り竿のマジシャン、伊豆の人間国宝、大室山の老人世界遺産。

金メダルにいちばん近い男、高橋タカスケ・67歳!

ワカサギが遊び相手だった幼少時、ワカサギに恋をした思春期、あっさりフラれた青年期、

ワカサギこそ我が友! ワカサギこそ我が命! ワカサギこそ我が人生!

ワカサギの心が読める男、高橋タカスケ・67歳! いよいよ登場です。


解説は青森大間漁港で本マグロ一本釣り30年のベテラン佐藤裕一さんです。

佐藤さん、よろしくお願いします。

はい。

佐藤さんから見て、きょうの高橋さんの様子は、どうですか?

わからん。


さて、この競技を簡単にご説明します。

採点のポイントは「漁獲高・技術・芸術」の3つ。

たくさん釣る、上手に釣る、美しく釣る。

これが勝利の合い言葉です。


さあ、高橋選手、落ち着いて第一投!

金メダルの希望をつないで、釣り糸が湖底深く沈んでいきます。

高橋選手は調子がいいようですね。

ですね。


こちらは朝8時15分、通勤時間です。気温ー12℃、微風、曇り。

先ほどから映像的にはまったく変化ありません。何の動きもありません。

ほんとうに生中継かと疑いたくなります。録画の静止画像と何ら変わりません。

そのくらい選手は競技に集中しております。

ときおり高橋選手の白い吐息がテントの外に流れ、

ヒマを持て余した公式審判員の斉藤さんがネスカフェを掻き回す、

スプーンの音以外は何も聞こえません。


ほんとうに静かな戦いです。静寂。まさに静寂。せいじゃく。

いつも反対のことばかりするのね。それは、あまのじゃく。これは、せいじゃく。

ピーコックかよ? それは、くじゃく!

サインはVかよ? それは、はん・ぶんじゃく!


試合開始から6時間、高橋選手は微動だにしません。みごとです。

氷の穴を見つめる。雑念を払って集中する。禅僧のようです。

世界レベルの選手ともなると、悟りを開いた高僧の境地で魚と向き合うと言います。

我らが日本代表の高橋選手も、そのひとり。

試合前のインタビューで、彼はこんなことを言ってました。


分厚い氷の下にいる彼らを感じるんです。

どんな家族構成か、悩みは何か、すべてわかります。

フォースの力です。フォースの力を信じなさい。

長女は進学か就職かで悩んでいる。

次女は伊東高校前期選抜に合格! やったね♪

大切なことはワカサギの気持ちをキャッチすることです。

心でキャッチして、両手でリリース。

これぞキャッチ&リリースの極意です。


わかさぎを釣リ上げる瞬間、高橋選手の全情熱がスパークする。

わかさぎを天ぷらにする瞬間、高橋選手の味覚がスパークする。

瞑想的な静の世界から、獣欲まるだしの狩人の世界へ。

この壮絶で劇的な場面転換があればこそ、

「わかさぎフィッシング」は観る者を魅了してやまないのだ。

競技のほとんどを支配する沈黙と忍耐の果てしない時間。

天国と地獄をつなぐ運命の釣り糸。直径15センチの暗黒の氷穴。

そこに人生の深淵を垣間見る人がいる。

そこに哲学としての生死背反律を感じ取る人がいる。

そこに無限の虚無と無窮の歓喜を見いだす人がいる。


と、そんなことを言ってる間に、高橋選手の得点が出ました。

漁獲高・プログラムコンポーネンツ=35.32。

技術点・テクニカルエレメンツ=38.45。

芸術点・アーティスティックインプレション=48.32。

うわっと、ダントツの一位です! 高い! 得点が高すぎる!

何が何だかわからないまま得点発表が行われました。

このままいくと日本初の金メダルも夢ではありません!

おめでとう、高橋選手!

お? お? お?

何か問題があったようです。何でしょうか。

公式審判員が集まっています。何やら竿を調べています。

高橋選手が体重計に乗っています。どうなってるんでしょうか。

え? え? 失格?

どうやら高橋選手は失格した模様です。

現場の高島アナ、詳しい状況を知らせてください。

はい、高島です。

分厚い氷に覆われた北海道は阿寒湖の会場からお伝えします。

予想通りのオチが待っていました。

体重60kg以上=15cmの釣り竿を使用すること。

高橋選手の体重59.8kg。

それなのに15cmの竿を使用したのです。

200グラム足りないじゃん! 

競技が始まると何時間もいや何日もトイレに行けないため、

多くの選手は試合前に用を足しておきます。

しかし、そのあとで必ずペットボトル2本分の水を飲み、

体重を調整するんですが、今日に限って高橋選手は、うっかりミス! 

なんてこったい! おとぼけさん! あんたは原田か?

こうして日本は、またもメダルお預けとなったのです。

金メダル確実の得点を上げながら失格した高橋選手は、

「体力の限界です」と涙ながらに語り、肩を落として会場を去った。

伊豆のワカサギ釣り名人・高橋選手。

お疲れ様でした。ほんとうに短い間、感動をありがとう。

最後に高橋選手の名言をご紹介して、トリノからお別れします。さようなら。


クマだって釣ったことがある。

ライバルは、荒川静香。


一碧湖のボート小屋で、うつらうつら居眠りをしている高橋選手は、

2年後に開催される「ノルウェーわかさぎW杯2008」をめざして特訓中です。


がんばれ、がんばれ、ニッポン! 

がんばれ、がんばれ、タカハシ! 

釣れ、釣れ、ワッカサギ! 

釣れ、釣れ、ワッカサギ!



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