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4月16日:佳き日を夢見て


白い犬が帰ってきた喫茶店「赤い屋根」から、

川奈ホテルへとつづくバス通りを進んでください。

ささ、遠慮しないでお進みください。

自分の家だと思って、ずず ずいーーーっとお進みください。

と、突然、英国貴族の館をモチーフにした、すっごい大げさな建物が現れる。

これが、今年3月オープン! 

超努級結婚式場「川奈ミッシェルガーデンコート」でございます。

って、急に言葉が丁寧になってるじゃん。


大げさなその建物のバックグラウンドは、ロンドンから西へ車で2時間の場所にある。

緑が美しいカントリーサイドにコッツウォルズの丘陵が広がっている。

ハニーストーンの家並みがつづく鄙びた村にひときわ大きな邸宅がある。

英国貴族の栄華と威厳の象徴・マナー(荘園)ハウスである。

広大な荘園を抱え、贅を極めた領主様の館が、豪壮な石造りの邸宅が、

いま、伊東市川奈の丘に誕生しました、でございます、候です、かしこ。

って、どんどん言葉が丁寧になってくじゃん。


つまり、石造りの古城で、シックな英国式のお屋敷で、

英国貴族のごとき華麗な結婚式が挙げられると…、

そう理解してよろしいんですか、旦那ぁ? ←って旦那って誰よ


でも、旦那ぁ。

いきなり、貴族のマナー(荘園)ハウスとか言われても、

こっちはビニールハウスのほうが気持ちが安らぐんだけどなー。

英国カントリーサイドとか、コッツウォルズの丘とか言ったって、

伊豆と英国って、あんまり似合わないんじゃねーか、ええ。

なんせ、こっちは、ちゃきちゃきの「伊豆っ子」だからよう。

へたしたら「ふじっ子煮」と義兄弟の盃を交わすところだぜ。


そんなことは、どうでもいいから話を進めろ? へい。



つまりね、なんつーか伊豆に英国貴族はなじまないって言いたいわけさ。

ここはあくまでも伊東市川奈なわけで、

田舎っていや確かにカントリーサイドだけど、どちからかと言えばシーサイドなわけで。

緑豊かなコッツウォルズの丘は広がってないけど、ハゲの面積は広がっています、とうさん。

ハニーストーンの石造りの家というよりも、むしろ木造モルタル築30年です、とうさん。

豪壮な石造りのはないけれど、古い木造建築の東海はあります、かあさん。


しつこいようだけど、ここは伊東市。

スコーンがおいしい町ではなく、お刺身がおいしい町。

紅茶がおいしい町ではなく、杉山のぐり茶がおいしい町。

フィッシュ&チップスとか、ソーセージ&マッシュの代わりに、

サザエの壺焼きや海の家のカレーがおいしい町。

ましてやポテト&チップスならコンビニで買える町。

なだらかなコッツウォルズの丘というより、激しい急坂がすごく多いから、

郊外に永住する人は毎年タイヤを替える町。オートバックスが儲かる町。

レンジローバーで広大な荘園を見回るというより、子供自転車が狭い公園を走り回る町。

市の財政が苦しいから公園のベンチが腐っていても、ほったらかし。

確認しないで座ろうとした老人が、ひっくり返ってアタマを打って、即死する町。

毎日、なんだかんだと霊柩車が走り回る町。タクシーより霊柩車が忙しい町。

空の霊柩車に手を挙げると運が良ければ駅まで無料で乗せてくれる町。

そんな素敵な伊東ニュータウン、マイホームタウン。

きょうも元気だ、伊東で暮らそう。風がおいしい町へ、ようこそ♪ 


って、とうちゃん、オレは町の不動産屋か?


あ、そうだ、もうひとつ。花婿の親戚連中が言ってましたよ。

北海道から伊豆に行くんだから、英国貴族みたいな結婚式よりも、

温泉に入って、大浴場で泳いで、豪華舟盛り4トン船舶を食べて、

そろいの浴衣でカラオケ大会、そういうのがいいやね。

宴会2時間とかケチなことは言わない。明け方まで延々やろう! 徹夜で祝宴!

大きな舞台付きの大宴会場で、差しつ差されつ、くんずほぐれつ。

いつのまにか向こうの親戚とも仲良くなって「YMCA」とか歌っちゃうわけよ。

こっちから何か持ってくかい? 鮭? ほっけ? イクラ? まりも? ヒグマ? 阿寒湖? 大雪山?

持ち込み自由なんかい? そう、太っ腹な式場だねー。いいんでないかい!


まさに、それが、それでこそ、伊豆貴族の結婚式だぜ、べいびー!


伊豆の独身女性に、

夢と花婿を与える「川奈ミッシェルガーデンコート」。

重厚でとても素敵な建物です。


  こういうところで結婚式したーい! ←ですよね

  いやん、ロマンチックフルじゃん! ←フルは余計

  彼といっしょに歓びじゃくりたい! ←じゃくってください


これまで「ハイクオリティな結婚式は川奈ホテルで…」が定番だったが、

目と鼻の先に、どかーんと新しい式場ができた。

デビューしたての大物新人がベテラン歌手に叩きつけた挑戦状。

実にいいことだ。成り行きを見守りたい。


そろそろ後半へ入ろう。

平日、次々と下見に来るお母様連れの娘さん。ほとんどが30代後半だという。

率直に言うと、わかりやすい表現をすると、四捨五入すると、

彼女たちは 40代 である。

87%くらい結婚を諦めてはいるが、いつかきっと、きっといつか、理想の男性が現れる。

そんな望みを捨て切れない八重桜。

そんな幻影を抱いて特大ケーキにかぶりつく午後の紅茶。

桃色スモークの中からブランコに乗って登場したい♪

軽井沢で白い馬車に乗って観光客にヤジられたい♪

あるいは、あるいは、あるいは…

伊豆一碧湖近くの教会で結婚式を挙げて、そのまま白いボートで湖に漕ぎ出すの。

白いボート、白いお帽子、白いコサージュ、白い顔、ん、白い顔?

あら、ダーリンたら船酔いしたのね、バカみたい。

と、そのとき! 突風が吹いてボートが転覆。

ダーリンは泳げないから沈んでいくの。ああ、ジャック! 

花婿沈没、愛の水中花、ボートの名前はタイタニック。

わたしは黒衣の花嫁、舞台裏で白から黒へ早変わり。

ああ、なんて素敵なんでしょう♪


でも、どれもこれも夢だったのね。むなしい。

いや、あきらめてはいけない! 理想以上の男性が現れるかもしれないじゃん!

そのときは迷わず彼の胸に飛び込もう!

しがみついて、かじりついて、むさぼりついて、離れない!


ぶふぉん! ぶほぉふぉおおーー! ←鼻息荒くて…



ママぁ、ここ、どう思う? 英国貴族の館だって。ねえ、どう思う?

お腹すいた。何か食べよ。 by 37歳女性のお母様(67歳)


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