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●8月23日:猫のヒタイは世界を救う


友人のノグチが病気で悩んでいる。深刻な多毛症である。

とにかく毛髪が多い。その量たるや常人の63.8倍。

あまりに多くて多くて多くて多くて多くて多くて、薄毛知らず、ハゲ知らず。

しかも年齢とともに毛髪が増えているというではないか。

薄毛または直裁的にモノ申すならばハゲの諸君には信じがたい話だ。


ノグチは生まれつきヒタイが狭かったが、加速度的な自然増毛により年々狭くなっている。

このまま放置しておくと、生え際国境を越えた毛髪軍がヒタイを占領し、やがてはヒタイ自体が消滅するだろう。

いまは何とかヒタイ自治区らしき地域が残ってはいるが、消滅するのは時間の問題だ。

毛髪軍の勢いは誰にも止められない。第三次中年期毛髪侵略戦争、勃発!


かつて猫のヒタイといわれたその面影は微塵もない。

ネコのヒタイ→リスのヒタイ→モモンガのヒタイ→ヤマネのヒタイ・・・と、

その面積はますます小さくなり、現在は「ノミのヒタイ」である。

担当医は、来年あたり「ミトコンドリアのヒタイ」になるのではと危惧している。

そんなに狭いヒタイじゃ、お熱があっても測れません。by お母さん

専門医によると、多毛症は、毛髪をムリヤリひっこ抜くしか対処法はなく、

薬物治療や放射線治療を試したが何の効果も得られなかったという。

カルテに書き込まれた正式な病名は「多毛性ヒタイ狭小ガン(末期)」。


ノグチは悩んだ。末期かよ…。ヒタイがヒタイらしくいられるのは、あと何年だろう?

やがて顔中が毛で覆われるのか? そんなのイヤだ! ぜってー、ヤダ!

オレはプードルのぬいぐるみじゃねーぞ! ←ぬいぐるみじゃなくても…  ←そんなに可愛くねーし

ィよっし、病気なんかに負けない!

毎日、こつこつ毛を抜こう。痛くてたまらないけど、抜いて抜いて抜きまくろう。


いや待てよ。ぴかっ! ←ひらめきの合図

世間には薄毛で悩む人間も多いはず。

元気なオレの毛髪をただ捨ててしまうのはもったいない。

世の中、捨てる髪あれば、拾う髪あり。

ハゲ予備軍の諸君にプレゼントしようではないか。

どうせオレは「多毛性ヒタイ狭小ガン」。残りの人生を悔いのないように生きたい。

多毛ノグチは、赤十字にナマ毛髪(元気な毛根付き)を寄付することにした。

これが有名な「愛の献毛運動」の始まりである。いまから30年前のことだ。

「愛の献毛運動」はまたたくまに日本全国に広がり、年間1万本以上の毛髪が赤十字に届けられるという。


しかし、問題がなかったわけではない。

なかには純粋な毛髪だと偽り、鼻毛、耳毛、スネ毛、犬毛、猫毛、イノシシ毛などの偽物を送りつけたり、

生活苦から違法な「売毛行為」をする人が現れたり、

「メイド喫茶でバイトしている女の子の毛髪よん。毛え〜♪」とか、

「超レアもの! 姉歯の金髪ヅラで〜す!」とか、

「正真正銘、織田信長の毛髪である」とか、「GakctとHydeとKAT-TUNのさらさらヘアーだよ♪」とか、

平気で偽物を売りつける密売業者が横行するようになった。

参照・ニセ毛髪


さらに、いつの段階で抜かれた毛髪かが問われるようになった。

いわゆる「毛死判定」の議論である。

毛髪の死をいつ判断するのか、国会でも喧々囂々の論議がなされた。

その後、毛髪移植手術は、めざましい進歩を遂げ、拒否反応や合併症とも無縁になった。

いまでは日帰り手術が可能になった。全国の毛髪ドナー患者は1000万人を超えた。

その後、一人一毛キャンペーンは世界中に広がって行った。

「We are the HAGE world」や「サライ・HAGE」など、24時間チャリティ・ソングが大ヒットした。

1996年8月、ハゲで悩む世界中の人々、とりわけ毛髪極貧生活にあえぐ中高年男性に希望の光りを与えたとして、

多毛ノグチは、ノーベル平和賞・審査員特別賞を受賞した。

現在、「愛の献毛運動」はユニセフに引き継がれ、ストレス過剰国に多い毛髪難民の救済に努力している。

また国連毛髪平和維持軍は、ヒタイ侵略をあきらめない毛髪ゲリラの自爆テロを監視している。


多毛ノグチの毛髪寄付から始まった無償の行為は、

全世界3億人といわれる「つるっパゲ患者」を救い、「貧しい毛髪ライフ」から解放したのだった。

それは世界からハゲが消えた瞬間だった。


追悼

2001年8月23日、多毛ノグチは「多毛性ヒタイ狭小末期ガン」で亡くなった。享年67歳。

毛髪の父、ハゲ撲滅のカリスマ、多毛ノグチの銅像は、栃木県サノ市毛髪の丘公園に建っている。

ありがとう、ノグチ・多毛・イサムくん。合掌。





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