そもそも天城の鹿は、世界的にも珍しい渡りを行う「渡り鹿」として知られている。
夏の猛暑を嫌う天城鹿は、涼しい北海道やアラスカへ渡ってしまい、12月初旬まで帰って来ない。
そんなわけで角切り行事が行われる10月には、頑健なオス鹿が一頭もいない。
肝心の鹿がいないにもかかわらず、毎年、なぜか角切り行事は開催されている。
今年も伊豆大室村の仙田さん(83)が飼育しているオス鹿のマコトくん(4歳)が大活躍。
無事に伝統行事の「角切り」を行った。この日の見物客は約2500人。
勢子(せこ)が十字形の捕獲具を投げて、オス鹿を捕らえると大きな拍手が起こった。
マコトくんの角は成長が早く、一年で2メートル以上も伸びるので毎年切り落としても問題ない。
ヤマピー似のマコトくんを地元の人は、「シカピー」とか「ツノ王子」などと呼んでいる。
角を切るために固定された仙田マコトくん
角切りは江戸時代、発情期のオスが角で住民に危害を加えるのを防ぐため始まったとされるが、
伝統行事とはいえ、ツノ王子のマコトくんに頼りっぱなしでは心許ない。
残念だが「天城の角切り」は、今年限りで終わりにすべきだとの声もあり、
来年からは「仙田さんの爪切り」を伝統行事にしたい…と主催者は語った。