まえ   つぎ   日記


2007年8月-18 クジラが来た夏



古い友人から「鯨」を頂戴した。

柔らかく蕩ける赤身、アワビのようなコリコリ皮刺、じゅわっと旨み凝縮のベーコン。

くわー、うまい! こんなに美味しかったっけ?

バカ妹いわく。これってクジラのマグロか?

●●クン、高級珍味をありがとう♪

そっちがクジラなら、こっちはサメの軟骨を送ります。

★ピンクが皮刺身・黒茶色が赤身



にしたって、近所のガキがうるさい。

庭にビニール製の大きなプールを持ち出して水遊びと来たもんだ。

やたら吠えまくる犬が二匹、いっしょになって大騒ぎ。

ぎゃー、ぎゃー、ワンワン! ぎゃー、ぎゃー、ワンワン! ぎゃー、ぎゃー、ワンワン!

ぎゃー、ぎゃー、ワンワン! ぎゃー、ぎゃー、ワンワン! ぎゃー、ぎゃー、ワンワン!

ぎゃー、ぎゃー、ワンワン! ぎゃー、ぎゃー、ワンワン! ぎゃー、ぎゃー、ワンワン!


子供も犬も嫌いなオヂサンは、たまりません。

そのうち内輪もめが始まった。

兄弟喧嘩ではなく、3人兄弟 VS 犬2匹の対決だ。

犬がプールに入ると狭くなってヤだ! おまえたち犬はプールに入るな! と子供軍3名が怒っている。

犬は犬でこう暑くちゃ水浴びでもしなきゃやってられないわけで。一歩も引き下がれないわけで。

ぜってー、入るもんね! プール、大好き! by 犬軍団


と、子供軍の総大将である武田春信とおぼしき長男が、犬に説教を始めたではないか。

興味津々、植木の水やり、しばし休憩。



あのよ、犬たち、よーく聞け。

ボクたちは小学生だ。まだ低学年だけど。

これでも学校へ行ってんだぞ。毎日毎日毎日、行ってるんだぞ。

よく学び、よく遊び、よく食べ、よく眠る。そんな小学生なわけよ。

犬だって、そのくらいわかるだろ、ええ?


でさ、いまは貴重な夏休みなわけよ。

年に一度の夏休み。最高に楽しい夏休み。

8月、ラブモード一色海岸、恋の熱帯夜のち失恋高気圧。夢花火のような夏休み。

伊豆高原のジイちゃんチで過ごす楽しい楽しい夏休み。


つまりさ、いつも勉強ばかりしているボクたちは、こんなときこそ思い切り羽根を伸ばしたいわけよ。

とことん、ハメをはずしたい! 空に向かって大声で叫んでみたい!

このときとばかり自転車で二人乗りしたい! ありとあらゆる校則違反をしてみたい!

朝から晩まで子供特有のカン高い声を張り上げたい!

な、な、わかるだろ? オレたち子供のいたいけな心情が? ガラスのココロが?


でさ、夜になったら鎮守の森で開催される、

サタデーナイト・ダンスパーティとは名ばかりの「富戸地区・第405回盆通り大会」で知り合った彼女とさ、

ファッションホテルつーの? ラブホつーの? ああいうところへ直行したいわけよ。

この際、デートとか、食事とか、プレゼントとか、面倒な恋のマニュアルを無視してさ、

そういうの一切なしで、即、直行! いいだろ、な、な?

でよ、初めての体験にドキドキしたいわけよ。願わくば、アンタって上手ね♪ とか言われたいわけよ。

それがダメなら、せめて、カキ氷くらい食べようよ。

オレ、いちごミルク! やっぱアズキにしようかな? それともおしゃれに、何とかフラッペぇ?


おい、犬! 

おまえたちは学校に行ってないだろ?

学校に行ってないから、夏休みがないはずだ。

夏休みじゃないものは、プールに入ってはイカンのだ!


おい、犬!

おまえたちは労働者でもないだろ。

パパは毎日毎日毎日働き働き働き、ようやく短い夏休みをもらったんだぞ。

いま、パパは狭いプールでイノチの洗濯をしています。ああ、極楽、極楽♪ とか言いながら。


それに較べて、おまえたち犬は何だ?

起きて、食べて、散歩して、吠えて、寝る。毎日がその繰り返しだ。

そんな安直な生活でいいのか? 恥じることは何もないのか、ええ?

プールに入れるのは、よく学び、よく働いた者たちだけだ。

少ない夏休みを謳歌する、ボクたち兄弟とパパだけ。

わかったな、犬よ。

判決主文 : 夏休みのない犬は、プールに入ってはならない。



むぎゅ〜、ワン。



こうして犬は、水遊びをあきらめ、いつものように庭を走り回ることにした。

3兄弟と若いパパは、気持ち良さそうにビニールプールに浸かっていた。

犬と子供たちの和議を祝して、ミンミンゼミが、ミーン、ミーン、ミーンと鳴いた。 ←普通じゃん


深夜、トイレから向かいの庭を見ると、犬たちが水のないプールで寝ていた。

天城山から城ヶ崎の海へ一気に流れ落ちる星大河の下で、またとない壮大な星夜の真下で。

憂慮も、屈託も、懊悩も、一点の曇りすらない、天真爛漫な寝顔を見せて眠る犬たちに、

めくるめく嘉辰令月が、それで良し! 思うがままに生きよ! と彼らの未来を約束し、すべてを肯定した。

明るい夏星の下で昏々と眠る犬たち。

よく学び、よく働き、よく生きる人々…。


さて、私は、プールに入る資格があるのか、ないのか。

生ぬるい夜風が、皮肉っぽい笑みを浮かべ、素知らぬ顔して吹き抜けて行った。

大きな流れ星がひとつ、小室山の向こうに流れた。午前1時のペルセウス座流星群。



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