まえ   つぎ   日記


2007年9月-02 砂漠の動物



台風9号が伊豆高原上空を通過して行った翌朝6時。

玄関チャイムを激しく鳴らす人がいる。

ピンぽん、ぴんぽん、ぴんぽん! ぴんぽおおおおおおおん! ぴんぽ〜〜〜〜おお〜〜〜ん!

ピンぽん、ぴんぽん、ぴんぽん! ぴんぽおおおおおおおん! ぴんぽ〜〜〜〜おお〜〜〜ん!

ピンぽん、ぴんぽん、ぴんぽん! ぴんぽおおおおおおおん! ぴんぽ〜〜〜〜おお〜〜〜ん!


こんな時間に、こんな非常識なことをする人は、あの人しかいない。

いまや伊豆高原日記の帝王となった仙田老人(83)である。

老人の域を超えて仙人になりつつある、仙田さんの辞書に「朝から迷惑」という言葉はない。

もちろん、「突然死」・「ひきこもり」・「ネット喫茶」という言葉もない。

うーさんよ、これ、あげる。カボチャ。

台風通過の翌日にカボチャってのもナンだけどさ。

斉藤さんからもらったんだけど、ひとりじゃ食えないわけよ、20個も。

カボチャ20個って、オレんちは年中ハロウィンか。

う−さん、少しもらってくれよ。人助けだと思って。


3日前の伊豆新聞にくるまれた、押しつけカボチャが5個。

素人野菜は丁重にお断りしているが、早朝でぼぉっとしていたのか、気がついたら受け取っていた。

他でもない仙田さんだからあきらめよう。老い先、短いし。

で、少し立ち話をした。


仙田さん、あなたに質問します。いいですか?

 いいとも!

いま、あなたは砂漠を歩いています。

 砂漠だぁ? どこの砂漠? 佐原? 語尾? 並部? どこよ?

砂漠ならどこでもいいんです。とにかく砂漠を歩いているんです。

 ふむ、ふむ。

あなたは5種類の動物を連れています。順番に捨てなければいけません。何から捨てますか?



しばしマがあって…



 キジ! イヌ! きびだんご! ウサギ! カメ!

 あるいは、

 たらば! ずわい! 毛! ワタリ! 花咲とか高足!

   



仙田さん、ごめん、ごめん。

馬 牛 猿 虎 羊 

この中から順番に捨ててください。


 なんだよ、早く言ってよ。

にしたって吉備団子は動物じゃないけど…。

 あはは。そこは間違い探しクイズにしたわけよ。

仙田さんはカニを捨てたけど嫌いなんですか?

 カニ・アレルギーなんだよ。味噌だけは好きだけどね。

カニみそ、うまいっスよね!

 いや、カニのじゃなくて信州味噌。

そうきたか。



では時間がないので質問します。馬、猿、虎、羊、牛。どれから捨てますか。

 最初は、うーん、うーん。難しいね、これ?

そんなに悩まなくてもナニゲに答えてほしいわけで。お気軽にお答えください。どうぞ!

 んなこと言ったって砂漠に捨てるんだろ。さっきまで家族同然だったんだろ?

そうかもしれないけど、ここはひとまず捨てましょう。

 じゃ、捨てる。

最初は?

 虎!

2番目は?

 馬!

3番目は?

 猿! 4番目は牛! 最後は羊!


なるほど、わかりました。

 わかったって何が?

仙田さんが一番大切にしているものがわかりました。

 年金手帳?

つまり、こういうことです。5種類の動物にはそれぞれ意味があって、

仙田さんが捨てた順番で言うと「=プライド、=仕事、=子供、=食欲、=恋人」なわけで。

仙田さんが最後まで捨てなかった動物は「羊」ですから、

最も大切にしているのは「恋人」ってことになりますね。


 そりゃ、そうさ。

 自尊心、仕事、子供なんか、どうでもいい。←ここ重要(テストに出るよ)

 食欲は健康な肉体を維持するためにギリギリ必要だろ。

 やっぱ大切なのは恋人さ。ときめくココロとか人を愛する気持ちを失ったら、85%は死んだようなもんだぜ。

 ともに笑い、ともに悲しみ、ともに食べ、ともに溶けたチョコを食べ、ともにベッドインする。

 ともに同じような夢を見て、ともに5時ジャストに目覚め、ともに「めざましテレビ」を見る。

 そんな人がココロの中にいるだけで、毎日がどんなに楽しいことか。

 わかるかい、うーさん?

と、まあ、そんなことを言い残して仙田さんは帰って行った。

83歳の仙田さんが一番大切にしているもの・・・恋人。

私が尊敬してやまない仙田さんの恋人って、どんな人なんだろう。

朝から、なんかうれしくて、大きなカボチャを持ったまま、ふふふっ♪ と笑った。




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