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7月2日梅雨のソナタ「バス停の中学生」

いつものファミレスで、いつものカフェラテを飲んでいる。

300円飲み放題ドリンクバー、おかわり3杯目。げっぷ、げっぷ。

相方は「豆腐プリン・うふふ」を食べている。なんじゃ、それ?

いつでもどこでも健康に気をつかう人だ。あきれた。

梅雨の中休み土曜日。ジトジト梅雨の大きな谷間。気まぐれ高気圧を寄せて集めてボインちゃん。

それにしても蒸し暑い! あぢぢ! 蒸し暑い! あぢぢ! 蒸し暑い! ←飽きるまでリフレイン

店内にはコレと言っておもしろそうな客もいないので外に目をやる。

ちょっとアンニュイな表情で、かるく頬杖をついてコケティッシュな仕草よ。いやん♪


道路を挟んで真向かいにバス停が見える。

女子中学生がひとりベンチに座ってバスを待っている。下校時刻だ。

あら、ちょっと可愛い♪ 愁いを帯びた人待ち顔、イライラ絶頂のバス待ち顔。

と、そこに! 男子中学生がやって来た。ごく普通の男子だ。美男子ではない。

同学年だろうか。はたまた先輩か。あるいは後輩か。もしくは親戚か、意外にも幼な馴染みか。

男子は立ったまま同じくバスを待つ。あきらかにバス待ち顔だ。

左目でバスが来る道の向こうを見るともなしに見て、右目で彼女をちらちら見ている。

お、可愛いじゃん! つきあいたい! 彼の内なる声が聞こえた。魂の叫びだ。

女子は女子で、男子がそばに来たので落ち着かない。髪に手をやったり、スカートを気にしたり。

イケメンじゃないけど誠実そう。結婚相手にはもってこいかも! つきあいたい!

彼女の内なる声が聞こえた。魂の叫びだ。すでに結婚を意識している。



ああ、恋の予感!


よーし、この際だ。カフェラテ4杯目をお代わりして、じっくり観察しよう。

中学生の男女、バス停の恋人、小さなトキメキ、大きな期待。

愛欲の炎に焼けただれ身悶えする女、獣のように猛り狂い淫欲の嵐を呼ぶ男。 ←フランス書院

なんて素晴らしいんだ。これが恋だ。これぞマジメな中学生の初恋! じゃじゃ、じゃーん!

と、いきなり彼は暴挙に出た。

すとんとコシを落とし、片膝を付いて、胸に当てた両手をグイーンと突き出す。

さらに、その両手を大きく広げたかと思うと、叫ぶような口調で彼女に言った。

キミが好きだ! つきあってください!

いきなり告白か。行動力の男だ。有言実行タイプだ。

秘するが花。秘めたる恋はもはや時代遅れなのか。21世紀だもんな。うん。

あいつ、真っ昼間からコクりやがった。ありふれたバス停で、ありふれた愛の告白。

カフェラテがやけに熱く感じる昼下がり。

ところが、どうだ。彼女は驚いたふうもない。いやん♪とも言わない。クネクネもしない。

生まれて初めて異性から好きだと言われたのにクールだ。沈着冷静の国から来た少女だろうか。

情熱的な男の告白にとても冷たい氷の女。ラテン男とアイスランド女、愛の不感症。

普通なら愛の告白をされたら、ポッと顔を赤らめ、どうしようもなく照れてしまい、

その場から駆け出し、西風に乗っていずこへともなく去っていくはずだ。

コレが初々しい恋のパターンであろう。

あるいは、どこまでもつづく砂浜をこけつまろびつダッシュするか、

あるいは、コーラのガラス片で足を切って、いてーよー! と泣くか、

あるいは、秋の海でクラゲに刺されて、わ、いてーよー! と泣くか、

あるいは、花火の残骸を見つけ、お、10連発じゃん! と感動するか、

あるいは、いまはもう誰もいない秋の北極海で海底油田を発掘するか、

あるいは、ごく平凡に真っ赤に燃えた夏の太陽に挑むイカロスになるか、

あるいは、すこしヒネッてサボリがちの書道教室に通い「臨書」を学ぶか、

あるいは、伊東オレンジビーチから八丈島まで無謀な遠泳に挑戦するか・・・だろう。


彼女は、違う。さにあらず。とんでもはっぷん、自転車で50分! ←遠いな

彼女は照れもせず逃げもせず、両手を大きく広げ肩をすぼめる。おお、外国人特有の古いポーズだ。

あー・ゆー・くれーじー?

おいおい、そこの中学生男女。

なに、そのオーバーなアクションの応酬は。こっぱずかしくて見ておれんよ。

キミたちは外国人中学生ですか。略して外中? あうとそーしんぐ?

短期留学生ってこと? ひと夏のヤポーン体験? でぃすかばー・じゃぱん?



結局、名も無き男子中学生は切ない想いを告白したが、すげなく拒絶された。

バス停の恋の一幕はあえなく終わった。世の中そんなもんですね。

たかが失恋のひとつやふたつで、彼が一生を棒に振らないでほしいと願う私であった。

バスが来た。いつものようにガラガラだ。

運転手に軽く会釈をしながら彼女が乗り込む。ステップを昇るとき風がスカートを揺らした。

バスが走り出す。男の一途な想いを振り切ってバスが出て行く。

彼は彼女を追って走る。追いつかない。バスは速い。人間よりも速い。

傷心の男子と初恋の残滓と排ガスの分子を残して、バスは彼女を連れ去ってしまった。

彼はうつむいたままベンチに座りこんでいる。肩が小刻みに揺れている。

バス停に置き去りにされた中学生。排ガスまみれになった無惨な青春の1ページ。

がっくし! 今夜は「伊東温泉ハートブレイクホテル」に泊まろう。

と、どうだ! なんてこったい!

バスに乗ったはずの彼女が、そこに立ってるではないか。途中下車の旅か。

彼女は彼の肩に手を置いて、やさしく語りかける。

酒、ギャンブル、女、サラ金。全部やめる? どうなのよ?

はい、やめます。マジメに働きます。キミや子供のために!

ありゃ! お前たちは夫婦なのか? 中学生ヤング夫婦か? いわゆる若い夫婦か? 子連れかい!

もしかして、一夜の気まぐれ・できちゃった婚? 体育館の裏でプロポーズ婚? 

文化祭のフォークダンスで燃え上がったマイムマイム婚? オクラホマ・ミキサー車?

運動会の男女混合リレーで燃え上がって、そのまま人生のゴールイン? ←5着かい!

ああ、驚いた。あの男女は年若い夫婦だったのだ。

私は5杯目のカフェオレを飲みながら、ふたりに幸多かれと願った。

と同時に「夫婦(めおと)中学生」の明日は、一波乱も二波乱もあるような気がした。



★「梅雨のソナタ」出演1:男子中学生(ナオキ・ホサカ)、女子中学生(サキ・タカオカ)

とするならば、ふたりの仲を引き裂いたのは、ホテイ? ぬのぶくろ? 

世の中、わからないことが多すぎる。

★「梅雨のソナタ」出演2:ファミレスの観察者・めるし・ちぇ・慈雨 ファミレスの店長・よん様ヅラ

ちぇ慈雨、よん様ヅラ。果たしてふたりは何者ぞ? 次号を待て!

第2話に、つづく。

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