●8月30日
伊豆高原、3組のご夫婦。
きょうで8月が終わり。夏じまいってやつですね。
ウチの近所に3軒の別荘がある。その話をしよう。
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A宅は庭の写真で借景に使っている大きなログハウス。
両親と子供3人が、毎年、20日間ほど遊んでいく。
パパは夏休みを長く取れる料理屋さんのご主人だ。
その間、パパの両親に店を任せているらしい。
子供は、兄と姉妹。
数年前、私に泥で作ったチョコレートをくれた姉妹は、
もう小学校5年と6年だという。ビックリした。
さすがに泥チョコは、もう、くれない。ちょっと、さびしい。
中学のにーちゃんは、変声期なのか太い声になった。
それでも大きな声で、ママ〜、ママ〜と呼んでいる。
ここの長男はいまだに甘えん坊である。
そして、ママ。30代後半だろうか。
姉妹のチクリによると、一日中、怒っているらしい。
いつも怒る。ママの仕事は怒ることなの。
悪いことをしなくても、すぐ怒るのよ。
ママとケンカしても絶対に勝てないもん!
そうか。ママは怒りんぼか。ケンカ強いのか。知らなかった。
私とは笑顔で立ち話するけどね。そんふうには見えなかったけどなー。
ママの仕事は怒ることか。うーむ、それは大変な仕事だ。
その点、パパはやさしい。なんでも言うことを聞いてくれるらしい。
子供たちの人気者だ。満点パパだそうだ。
この家族は、一昨日帰って行った。
帰る日、パパが「長い間、お騒がせしました」と挨拶に来た。
これ、どうぞ。新聞紙に包んだモノをもらった。何かな。
毛ガニ2、大トロたっぷり! すごい量だ!
料理屋の主人・毛ガニをくれるパパは、ウチでもすごい人気者だ。
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B宅には60代のリタイアご夫婦が遊びに来る。
この別荘は今年6月に転売されて住人がチェンジしたばかりだ。
月の半分ずつ都会にある自宅と交互に使うらしい。
この家は静かだ。とにかく静かだ。引っ越しの挨拶に来たとき以外、
これといって話らしい話をしてないので情報が少ない。
奥さんは刺繍が趣味で、一日中、針を持っているらしい。
ご主人は、無趣味だと言っていた。
庭で家庭菜園をはじめたらしい。トマトの苗が枯れてうなだれていた。
お盆過ぎに、さっさと帰って行った。
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C宅である。私は、ここの夫婦が好きになった。
ここも転売されて、今春、住人がチェンジしたばかりだ。
湘南に住んでいるが海が見える高原に憧れてここを買ったという。
もちろん常駐ではない。月に5日ほど遊びに来る。
ご主人は70歳前後。奥さんは60歳くらいか。
奥さんの方がはるかに若く見える。熟女化粧ばっちりの人だ。
で、風呂である。いつも、いっしょに入っている。
夕方、テラスにいると、入浴中の声が風に乗って聞こえて来る。
ざぶん、ざぶん。豪快なお湯の音に混じって、
「あー、いい風呂だなー!」「外が見えるお風呂っていいわね」。
ウチからその風呂は見えないが、別荘の浴室は、
だいたい大きな窓が付いて外が見えるつくりになっている。
熟年夫婦の浴室の会話を聞いても仕方ないが、
否応なしに聞こえてくる。
「おやー、お母さんのオッパイ、また大きくなったか?」
「やーね、何、言ってるのよ」
「俺は、お母さんの大きなオッパイが好きだなー」
「……」
「あー、いい風呂だ!」
「そうね、明るくて気持がいいわね」
ざぶーん、ざぶざぶ、ざぶん。(波の音じゃないよ)
大きなオッパイのお母さん。
お母さんのオッパイが大好きなお父さん。
ふたりは、今日、帰って行った。
すべての窓にシャッターが降りていたが、
風呂場のブラインドは上げたままにしておけばいいですよ。
明るい日射しが差し込んでいる、ふたりの浴室…。
伊豆高原、秋に向かって、まっしぐら。