まえ  つぎ  日記INDEX

8月16日(土):メジロの兄弟


ようやく、ようやく、短時間だが雨が上がった。

大粒の雨に蹂躙され尽くした庭の片づけをする。

鳥の鳴き声がするので見上げると、メジロが二羽、花水木の枝で遊んでいる。

沙羅の木に巣作りしたメジロの子供が帰って来たのか。羽ばたきが、幼い。

メジロは夏になると標高1000m以上の高地に行く。避暑を兼ねて…。

いまどき民家の庭にいるとは。なんて寒い夏なんだろう。

某ネットで子育てママさんたちと知りあった。

子供がいない私にとって彼女たちが綴る子育て日記は新鮮だった。

3-4歳の子供の生態、身長や体重、行動や言葉、食事、病気、幼稚園・・・その他。

そうした日記を読むたびに、生き物としてのあまりの弱さに他人事ながらオロオロし、

あるときは、なんとまあ生命力に溢れた強い動物なのかと感動した。

入梅の頃、巣作りを始めたメジロは、

外敵からも人間からもまったく見えない完璧な場所に新居を構えた。

メジロが頻繁に出入りする姿を目撃しなければ、私にもわからなかった。

長引く梅雨の中、大切なスウィートホームを守りつづけ、

早くも到来した台風にもめげず、強風に揺さぶられる小さな巣のなかで、

何日も微動だにせず卵を温め続ける。母鳥の身体は冷え切っていたに違いない。

そして、孵化。梅雨の晴れ間に聞いた、雛が餌をねだる囀り。

一羽が近くの枝にとまり辺りを警戒する。もう一羽が餌を運んでくる。

そんな繰り返しが何日つづいたことだろう。

梅雨明けと同時にメジロの姿を見ることはなかった。雛の囀りも聞こえない。

カラスが接近したときオスが放つ、ドスのきいた威嚇の鳴き声を聞くこともなかった。

巣立ち、完了。

私は、思い出す。雨に濡れながら外敵を警戒していたメジロを。

顔を上げて天を睨み、辺りを見回し、片時も油断しないその眼は炯々と光り、

普段は愛嬌者メジロの象徴であるホワイト・リングすら、

何者も寄せつけまいとする気概と迫力に満ちていた。

濃緑色の羽根は、容赦なく叩きつける豪雨を、ものともせず光り輝いていた。

その姿は、どこか誇らしげで堂々としており、すでに父親の自覚を持った、

逞しい、実に逞しい、一人前の男の姿であった。

いま、庭に来ているメジロが二羽。兄弟か。

ウチの庭から巣立ったメジロか。だとしたら、まんざら知らない仲でもないぞ。

キミたちのパパやママのことを話そうか。

野鳥の本能を超えた愛情で子供を守り育ててきた、その一部始終を。

動物としての責任と義務を全うし、なお、自然の脅威や病気やあらゆる敵と対峙し、

一歩も退くことなく、ただただ子供のために生きていた至福の時間。

野鳥の嘴は、家族を守る反撃のナイフであり、餌を与える慈愛の箸である。

キミたちは、知っているかい。

どんな強敵であろうとも勇猛果敢に闘う意志を漲らせた父の姿を。

巣立った瞬間の母の歓びと微かな愛惜を。必死で、一途な、子供への想いを。

キミたちは、知っているかい。

メジロが遊んでいた花水木の根元で昼寝する、ギボウシの親子。

無造作に組んだ石。青みを帯びて美しいのにメジロのフンが、ひとつ、ふたつ。

トイレのしつけ、忘れやがったな。



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