|
●8月25日(月):栄螺と鮑
年若い友人から何度もサザエとアワビをいただいた。それも大量に。 彼の祖父が伊豆の海で獲ったものだ。 こりこり、しこしこ。じゅーし〜〜! ウマい、ウマい。何という贅沢! ● さあ、食べよう。ウチは頂き物は、即、食べる。その日に食べる。 ヘタすればお土産のお菓子などはお客さんといっしょに食べる。 ごめんね、おもたせで。いま、何にもなくて…。(いつも、何もないけど) サザエはいきなり火あぶりの壺焼き。じゅくじゅくと旨そうな音と匂いがしてきたら、 醤油をタラッとかけて「コイツめ、出てこい!」と身をほじくり出す。 いやがって身体をくねらせても、もう遅い。つるっと身が抜ける。ぎゃ、真っ黒な肝も! 海の家で、あちっ、あちちっ!と言いながらニコニコして食べたのを思い出す。 ● 貝殻を眺めていたら何とも言えぬ美しさにうっとりした。 地上の動物にはありえない造形。石灰質の鎧に守られた堅固な本体。 人間どもにいともあっさりと釣り上げられるマヌケな魚とは違い、 激しい潮の流れに負けることなく、唯一の縁(よすが)である岩にしがみつき、 地道に、密かに、地位も名誉も欲せず、一生を静かに終えようと誓った貝類。 緻密な旨味を一滴たりとも漏らすまいとする頑固な姿勢。 まさしく、忠義一心、古武士の風格である。 お気軽に「サザエさん」なんて呼んでほしくない。 ● アワビは、どうしてもサザエより格が上だろう。百戦錬磨の老中といった役回りか。 ステーキにするのもうまいが、そのまま刺身にしてコリコリした感触を、 丈夫な歯と桃色の歯茎と高感度な舌全体で味わい噛みしめる。う、うめ〜〜〜! アワビは、貝の裏側が真珠色である。 写真ではウマく再現できなかったが艶やかに光っている。 どのアワビも空気孔が4穴、整然と並ぶ。 ● ゴミの日までと思い庭に置いたアワビの貝殻が数十枚。そのままになっていた。 強烈な日射しに反射して見事な光沢を放っている。気温33℃。 海の中の密かな輝きであるはずのアワビの殻が、 たぶん、最後であろう暑い夏の午後に宝石のように光っている。 サザエのように自己主張する造形美もない平凡な貝なのに、 裏にはとてつもない輝きを秘めた貝、あわび。 撮影を終えてから思った。この貝の中に蝉の抜け殻が落ちてくれば、いいのに。 往く夏の象徴である蝉の抜け殻に真珠色の貝の棺。 ヤラセでもいいから、そんな写真を撮りたかった。 夏は生と死が激しく交錯する眩い季節。昔から夏が好きだった。 ● 年若い友人に言いたい。 栄螺の無骨な形を見よ。鮑の殻の裏側をとくと見よ。 キミのじーちゃんに、似てないか? あるいは、名も無きどこかの誰かに。
|
|