まえ  つぎ  日記INDEX

●12月28日 年の瀬の太鼓


夜10時、テラスに出て寒暖計を見る。

気温5℃。うう、さぶ! 今夜は湯たんぽ。

と、どこからともなく太鼓の音が聞こえてくる。

チェロキー? 鬼太鼓座? 和太鼓保存委員会のみなさん?

どんどん、どこどこ。どん… (へんなマがあって)  …   どこ!

どこゲコ、どこ、どん。べこげこ、でんでん、ぼこ!  …   ポコ!

ど、ど、どん。ずんどこ… … (へんなマがあって) … … どこん!

伊豆高原に遊びに来た子供が、おばあちゃんの家で「太鼓名人」をやっているのだろうか。

それにしたってヘタくそ。全然、リズムに乗ってない。

祭りで浮かれた酔っぱらいが打ち鳴らす暴れ太鼓か。近所迷惑この上なし、です。

この辺りはとても静かなので音痴な太鼓の音が、やけにクリアに響き渡るのだ。

四方八方に、すんどこ、どこどん、ど、どどどど、ぽこ、ぼん♪

見上げれば、いやな湿気を帯びた凍て雲が、てんでんばらばらに散らばり、

12月の冴えない月が、おずおずと顔を出し卑屈に笑っている。

すでに満開の寒桜に侮蔑の光を落としている、小生意気な星がこう言う。

狂い咲きのお調子者め。年が明けるまで開花を待つべきだったろうに。

やい、おっちょこちょい桜! そのへん、どうよ? 何とか言えよ!

こんな早いうちから咲いてよー。花咲じいさん&ぽち。出番ないじゃん!

私が「大室いちばん!」と名付けた非暴力主義の桜は、

言われるまま耐えに耐えていたが、ついに怒り爆発!

暖冬だって言ってんじゃん!

オレのせいかよ! かんけーねぇだろ!

勝手に部屋に入るなよ!

掃除なんかしなくたっていいんだよ!

かんけーねぇだろ!

だから、暖冬だって言ってんじゃん!


伊豆桜の甘い匂いがする。雨もしくは雪を含んだ重い夜の匂いがする。

庭の土が本格的な寒気団を迎えて身構える音が聞こえる。

土中の水分は暖冬の今年こそ霜柱にはならないぞと息巻いている。

とっくに咲き終え皺枯れた水仙が言う。私って、所詮、前座なんですね。

雪かと見紛う純白の花を咲かせる300株の「初雪かずら」に向かって、底意地の悪い星が言う。

自分を初雪だと思っているなら、雪不足で悩むスキー場に行ったらどうだ?

初雪かずらは寒中月光浴に夢中で星の戯言など聞いてもいない。

24日はとうに過ぎたのに咲く気配のないクリスマス・ローズは、己を恥じて俯いたままだ。

例年、吹いて吹いて吹きまくり、植物たちを震え上がらせる伊豆名物「冬の西風」は、まったく吹かない。

北緯34°54’11”、東経139°6’32”。伊豆高原・気温5℃。くもり時々晴夜。

はずれっ調子の太鼓に幻惑されて、サザンカの最後の白花が落ちてしまった。

ぼたっ、どてん、うぎゃ!

2004年、あと3日で、おしまい。




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