●3月15日 アルバイト募集!
オチケンの後輩で、千葉県は九十九里海岸で酒屋を営んでいるヤツがいる。
彼が配達のアルバイトを募集した。
ちょうど春休み。ヒマな高校生が数人応募してきたので、軽い面談を行った。
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あ、ちょっと聞くけどさ、鎌倉ってどのへんにあるか知ってる?
ナンすか? そんなとこまで配達するんすか?
そうじゃないけど、ただ聞いただけ。鎌倉って、どのへん?
すると高校生が、こう答えた。
東京のうしろ。
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じゃーさ、知ってる国を順番に言ってごらん。
えーと、まず、アメリカ。
うん、アメリカ。
えーと、えーと、アメリカでしょ…。
それから?
えーと、えーと、えーと…。
どうした?
もう許してください!
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問題が難しすぎるかな。じゃーさ、「すいきんちかもく」って知ってるよね?
はい。
水金地火木土っ天海冥。「海」と「冥」が入れ替わったりするけどさ。
オレ、星を見るの、好きっす!
お、ろまんちっく。ムーディな男か。星の下でフラメンコを踊るのか?
はい。
はいって、キミは西郷輝彦か?
遠山です。
全然、違うじゃん。キミは遠山クンって言うのか。
はい。遠い山と書いて、遠山です。
遠い山と書いたら、遠山だわな。
はい。
近い山と書いて遠山だったら、たどり着けないだろ?
ですね。
伊豆市と書いて「いまめ市」と読むんだぜ。
マスター、そのネタ、好きですね。
誰がマスターやねん! オレかい?
はい。
あのなー、オレはこう見えても酒屋の若旦那だ。マスターって言うなよ。
りょーかい。
そういえば昔の酒屋は、ここで酒を呑ませたんだぜ。
そうっすか。
スナックとかキャバクラがない時代さ。
ふーん。
みんな仕事帰りにさ、南京豆をぽりぽりかじって、酒屋で呑んだもんさ。
へえー。
オレが子供のとき南京豆のカラを掃除したもんよ。遠い目。
へえー。
いまじゃ南京豆にかわって、ピスタチオ。
ミスター・ちよ?
男の奥村チヨかい! 恋の奴隷です。
あはは。
ピスタチオ、カラごと食べられる?
いいえ。
だろうな。聞いただけ。
はい。
じゃ、このへんで話を戻して「すいきんちかもく」を順番に言ってみ。
えーと、 水は・・・水星、金は・・・金星。
そうそう。がんばって最後まで言ってみ。
水は水星、金は金星、地は・・・ちセイ!
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若旦那はあおむけに倒れた。どてん! ぎゃふん!
配達のバイトとはいえ「ちセイ」と答えた彼にはお引き取りを願った。
と、次の高校生が来た。律儀に履歴書を持参している。
まともなヤツが来たと友人は喜んだが、写真は彼女と写したプリクラ。
志望動機には、こう書いてあった。
1:遊ぶ金ほしさ
2:どうせいしきん ←ひらがな!
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いま、若旦那は自分で配達をしている。
九十九里の海は春の色。軽トラが走っている。陽気な口笛が聞こえる。
彼の店には、こんな貼り紙がある。
アルバイト募集! 世界の国を3つ以上言える人・優遇!
後輩イージマ、益々の商売繁盛を祈ります。