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●4月14日:川奈その1:赤い屋根の白い犬
今夜から二夜連続で小さな町の小さな話題をお届けします。 よゐこのみなさん、ラヂオの前に集まってくださーーい。 ● 伊東市川奈に「赤い屋根」という有名な喫茶店がある。 そうです、とても眺めが良い赤い屋根のティールーム。 川奈ホテルに行く途中にあるので、初めての人でもわかりやすい。 よく晴れた日には窓辺からオアフ島が見えるので、 ハワイに行ったことのない伊東市の若者は、 とりあえず「赤い屋根」からオアフ島を眺めて、 バーチャルハワイ旅行を楽しみます。 と、ここまでは、ほんの前フリ。 ● 3日前の伊豆新聞によると、 「赤い屋根」のアイドル犬が行方不明になって大騒ぎだという。 飼い主、ママさん、店の常連客が必死になって探し回っている。 読者のみなさん、どこかで白い犬を見かけませんでしたか。 もし見かけたら近くの交番に知らせてください。
まさに人生の絶頂期、恋愛の正午どき。知力体力気力=オール100点満点! そんな働き盛りの彼女が失踪した。 今頃、一匹ぼっちで心細いに違いない。 ● 赤い屋根の白い犬。国旗と同じ配色だから、わかりやすい。 突然、消えた川奈の白犬。何かおかしい。引っかかる。 刑事生活30年、私のカンが告げている。 これは単なる失踪でもなければ、ましてや少女の家出でもない。 ボケ老人の徘徊でもなければ、三歳児の「はじめてのお使い」でもない。 事件だ、事件の匂いがする。 ● 事件の裏に隠された戦後最大の秘密とは、何か? 川奈八墓村の沖合に浮かぶ獄門島の怨念か? 情欲に狂った美人姉妹のどす黒い陰謀か? 黒革の手帳に記されたメルアド謎の暗号「ぱぺぽ」とは、何か? 父を死に追いやった詐欺師に復讐を誓うクロウサギとは? ←ウサギかよ 川奈の白い犬が消えた! 愛と宿命のホワイト・ドッグ、Missing Now! 次号を待て! ←待てない ついに匿名捜査班が動き出す! ←名乗れよ ● 失踪した白い犬(彼女)と初めて会ったのは、忘れもしない3年前だ。 桜が終わった4月中旬、ちょうど今頃だったように思う。 はじめて「赤い屋根」を訪れた。 眼下には早くも初夏の輝きを放つ川奈の海が広がっていた。 見渡せば真鶴・湘南・房総半島が春霞の中で揺れていた。 喫茶店「赤い屋根」は完璧なロケーションだった。
そのときの彼女はヒト年齢20歳前後。お肌ぴちぴち、きゅーてぃ・はにー♪ 押切もえより可愛いかった。ほしの・あき(28)より可愛いかった。 ちょーミニのエプロン、いやらしい黒のストッキング、ふりふりガーターベルト…。 伊豆のイチ喫茶店とは思えない衣装だった。 そして、彼女は、こう言った。
この店、はじめて? あ、はじめてかも…。 あんた、学生さん? いや、ベテラン社会人だけど。 そ、じゃ、だいじょうぶね。緊張しなくても、いいのよ。 はい。 じゃ、先にシャワーを浴びてね。 シャワーっすか? 緊張しないでね。あたしが全部してあげるから♪ あの、コーヒーを、ひとつ。 わかってるってば。延長してもいいのよ。全然おっけー! あんた、若いもんね。 いや、そういうことじゃなくて、コーヒーを。 いつまでも照れてないで、いい子だから早くシャワーを浴びなさい。 うぉい! いつまで三文芝居をしてるんでい!
じよーくかよ! 誰に冗句を言ってんだぁ? オレ様を知らねーのかい?
目先の小笑いさえあれば貯金はいらない芸人根性。 桃屋の江戸紫があれば、シラスおろしや海苔はいらない朝飯の常識。 焼き冷ましの塩鮭と煮詰まった味噌汁を温める、やもめ暮らしの侘びしい朝飯。 妖気と幼気が爆発する言葉の内燃機関・ジョーク機関車。 明日の米より今日の恋・愛の言霊が炸裂する伊豆高原ラブラブ日記。 人生七転八倒・天衣無縫の冗句魂が炸裂する伊豆高原嘘八百日記。 自慢のシャイニング頭頂部、誰よりも美しい顔、長いマツゲ、細い指。 怪しい自尊心、強烈な自負心、天下御免のストレプトマイシン。 伊豆高原で、いまや知らぬ者なし。 して、その男の名は… くまのプーさん!
どてん。 うーさんじゃないのかよ!
これが白い犬との初めての出会いだった。おもしろい犬だった。 その後も私が行くと、「いつもの?」としたり顔でうなづき、 ママさんに「いちばん安いコーヒー!」とオーダーを通す。 コーヒーが来るまで手持ち無沙汰なので、タバコをふかしていると(禁煙前)、 身体に悪いからやめなさいよ、肺ガンになったらどうするの?と姉さん女房を気取り、 黙っていても「トーストと東スポ」を持って来てくれた。
親しくなったある日、彼女が身の上話をした。 あたしね、紀州犬なのに鹿児島出身で、ごわす。 それじゃ、キューシュー犬じゃん! ってツッこんでよ、お願い! と泣いた。 私は黙って彼女の細い首を抱きしめ、やさしく背中をさすってあげた。 顎の下をくすぐると喜んで私に甘えた。 3年前の春のことだった。 ● ゴールデンウイークまで少しマがある、春の谷間4月中旬。 3年前と同じ季節が巡り来て、海は晩春の色になりつつあるが、 喫茶店「赤い屋根」に、白い犬は、いない。 アイドル犬は、もう、いない。
アンニュイな気分になって家出したのかもしれない。春先はそういうことが多い。 あるいは伊豆の花巡りを思い立ち、下田まで行こうとしたが、 稲取あたりで途中下車して、ぶらり旅。 そこまでは良かったが道に迷ってしまい、そのまま誰かの家に住み着いた。 そんなところかもしれない。春先はそういうことが多い。
あるいは、ユニーの総菜売場でヤマピーそっくりのカレが現れて、ひと目惚れ。 即、婚約して、屋久島にハネムーンか。春先はそういうことが多い。 いや、そんな無礼なマネをする彼女ではない。 それならそうできちんと挨拶をしていくはずだ。
それとも天城名物マメ桜の花びらに乗って、異人さんの国へ行ったのか。 ↑とうちゃん、オレは一寸法師か? ←違う!
↑とうちゃん、オレはメリー・ポピンズか? ←違うな…
赤い屋根の下に、あの白い犬は、いない。 私のスニーカーに、ちょこんと顎を乗せてうたた寝する、あの白い犬がいない。 足元が寂しい。テーブルの下が広すぎる。 と、ママさんが冷蔵庫を見せてくれた。 扉に小さなメモが貼ってあった。 こう書いてあった。
うーさんの嫌いなもの: さやインゲンと塩鮭とチクワのピザ、チーズみたいな古い牛乳。 得意な歌: 津軽平野、北酒場(わたしとデュエット)、たいがー&どらごん。 得意なツッこみ: それじゃ、キューシュー犬じゃん! 得意なボケ: 白ウサギをだます黒ウサギ。その名はピーター・関根・ラビット!
白い犬は、私の好みをメモしておいた。そのやさしさがうれしい。 北酒場(わたしとデュエット)。この一行が泣けた。 冷蔵庫に貼られたメモが、にじんで見えた。 川奈の春風にふわりと揺れた。泣いているように揺れた。 赤い屋根の白い犬は、いま、どうしているんだろう。 元気でいてほしい。
そうだ、重要なことを聞くのを忘れていた。 私は犬の名前を知らなかった。オイとかオマエとか呼んでいた。 ママさんに聞いた。犬の名前は?
「白い壁」。
ほげっ! 「赤い屋根」の「白い壁」か。 聞けば彼女が自分からこの名前にしてほしいと言ったそうだ。 姓が赤屋根、名が白壁。つづけると赤屋根白壁さん。 漢字5文字だ。実印を作ると割り増しになる。 それにしても犬の名前が「赤屋根・白壁」。 みごとだぜ、べいびー!
尋ね犬「白い犬」の写真公開:この人を探しています。 ●写真1 ←子連れかよ! ●写真2 ←変装かよ!
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