●2006年1月8日:黒猫逍遙
先日降った雪がまだ融けない。ここは伊豆半島のシベリア。永久凍土のツンドラ地帯である。
案の定、海沿いの市街地に雪の気配はない。ひとひらの雪すらない。by 渡辺淳一
三連休の今日は気持ちよく晴れた。国道や市道、問題なし。ごく普通に走れる。
別荘地内の細い道は、カチカチに凍りついた雪が残っている。
いまだに遊歩道はチェーン規制が敷かれている。通行不可。
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近所に開かれた森がある。
雪がまるごと残る真っ白な森を、黒猫が横切って行った。
そう、あの片眼の黒猫だ。数少ない私の友人。
凍った雪の上を悠然と歩くその黒い塊は、筋の通った孤高の動物。
誰からも餌をもらわず、媚びへつらわず、自分だけを頼りに生きる野良猫。
かといって厭世的でも排他的でもなく、信じるに足る人間に出会うと、さらりと目礼をかわす。
ほどよい距離感で社会に馴染んでいる修行僧のような黒猫。
私の視線を感じた黒猫は、すっと低く身構えたがすぐに緊張を解いた。
世間のからくりを鋭く見通す左目が能天気な私を捉えると、ふっと笑った。
その目はこう言っていた。生きているなら、けっこう。私は小さくうなづいた。
ただ、それだけの交流。5秒間の新年の挨拶。
達者で。お互いに無言のまま祝詞を交換した。
1月の光りを独り占めした雪が、人々の向上心を乱反射させて輝いている。重い光りと軽い影を背負い込んで独りで生きる黒猫は、
上を向いて生きる者たちすべてを肯定する足取りで森の向こうへ消えた。
いかにも大衆的な雪の白。孤身単影、隻眼の黒猫。
とても印象的なモノトーンの風景だった。
写真に残したかった完璧なワンショット。